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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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八卦院 1

 十二階建ての塔を左手に曲がってしばらく。人やそうでないものが行きかう道のさなかでユズリは歩みを止めた。それから遊佐に振り返り、硝子のはまった引き戸の手前にかかる「金物」と書かれた暖簾のれんを指差した。

「ここ。この店は町で一番の金物屋。冥府公認の大店おおだななの」

 少しばかり上機嫌にユズリは言い、暖簾をくぐり引き戸を開き店内へと入って行った。遊佐もその後を追うと、店内は大店というわりに閑散としていた。天井からレトロな形のランプがひとつだけ下がった店内は薄暗く、決して広くはない店内のそこかしこには鍋やら包丁のような料理器具、大工道具のようなものや、遊佐には使い道の想像もつかないような金属製品が置かれている。

「いらっしゃい」

 どこかおざなりな印象の声が店の奥からした。

 物珍しさに店内を見回していた遊佐を置いて、ユズリは声のした奥へと進む。遊佐もその後に続くと、店の奥は障子で隔てられた座敷になっており、半分開いた障子の隙間からは真っ白な頭が覗いていた。

 老人かと思った矢先、白地の浴衣に濃い藍色の帯をした小柄な人物が顔を上げて障子を開いた。そして現れた人物を目にし、遊佐は軽く目を見張った。

「何だ。ユズリか。久しぶりだな」

 そう気安い調子で話す白髪の人物。だがその姿かたちはどう見ても十歳かそこらの子供にしか見えない。まるで雪のように真っ白い髪の下には、金をそのまま嵌めこんだかのような黄金色の大きな双眸。それらの容姿は遊佐を軽く困惑させるには十分だった。

 そんな初対面の客に気付いたのか、白髪の少年は金の目を遊佐に向け見上げてきた。

「ああ。そっちの餓鬼が噂になってる鉄砲打ちか」

「噂って?」

 ユズリが不審げに訊き返すと少年は畳に胡坐をかきながら言った。

「お前、この間心中未遂を起こした向こうからの逃亡者相手に刀狩りしただろ? その時お前を手伝った餓鬼がいて、しかもシノ公認だって最近じゃもっぱらの噂だ」

「お父さん公認て何? 遊佐はただの人探しよ。その面倒を私が見てるの」

「へぇ」

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