クチナワ 7
「早すぎた? 一番住みやすくなったんじゃなかったのか?」
つい口に出してしまい、ユズリとクチナワの視線が揃って遊佐に向けられた。
クチナワはしばらく遊佐を見てから「ああ」と声を上げた。
「もしかして小僧はまだ知らないか? 管理者は死んだ人間が冥府から受ける役職のことだ。もしかしてシノが此岸じゃ死んでるってことも知らなかったか?」
「いや、それは知っていた」
だがユズリと折継の遣り取りなどを見ていた限り、管理者という役目に就くのが死んだ者だけということは想像していなかった。シノが死んでからそういった役職に就いたと聞いてはいたが、死人限定などとは聞いていない。
「ユズリがすぐにでも自分が跡を継ぐようなことを言っていたから、誰でもなれるものなんだと思ってた」
そう答えてユズリを見ると、ユズリは気まずそうに顔を背けた。
「ユズリ」
クチナワは視線は火薬に落としたまま一段低い声でその名前を呼んだ。
「お前はあくまでも此岸での自分を第一優先にするって条件でシノからこの町での抜刀帯刀許可を得たんじゃなかったか?」
「……別に昼の世界を蔑ろにしてるわけじゃないし」
不貞腐れたようにユズリは答える。
「それに早死にしたいわけじゃないし。ただ折継に管理者の座を渡す気はないけど」
「折継な……ったく。近頃の餓鬼共は命を惜しむってことを知らねえな」
心底呆れたといった風にクチナワは言い、火薬を詰めた袋を紐で縛った。
ユズリはあからさまに拗ねた顔をして俯いている。そんなユズリを見ずにクチナワは言った。
「必死に生きろよ。生きているなら」
「……わかってる」
「死んでから後悔しても遅いからな」
「……知ってる」
もうユズリは顔を上げることもせず、唇を噛みしめてじっと地面を見ている。せっかく珍しく上機嫌だったのに、また機嫌を損ねてしまった……否、拗ねてしまったと言った方がしっくりくるか。
「ああ、それから」
そして続けられたクチナワの言葉。