クチナワ 6
「俺ごときの評価に見合う以上の実績と実力を持つ男だよ。お前の父親は」
「すごいのは認めるけど性格悪いよ、お父さんは」
「善人じゃこの町の管理者なんてやってられないだろうからな。管理者としてこれ以上なく適任だろう。事実、俺が町に住み始めてから一番住みやすくなったのはシノが管理者になってからだ」
「ふぅん」
会話を聞いている限り、クチナワというのは遊佐たちと違ってこの町に住んでいるのか。
しかもシノが管理者に就任する前から。わかってはいたがこの町で外見年齢というのはつくづく当てにならない。
もっともクチナワは遊佐たちとは違う世界の出身か、もしくは八卦院のように狐だとかそういった類なのだろうが。そうでなければ手の甲に鱗が生えた上、うなじに三つめの目がある人間などいやしないだだろう。昼の世界で言う妖怪だとかそういうものなのだろうか。
黙々と火薬を袋につめる作業を繰り返すクチナワをじっと見てみる。
人間で言うなら年の頃は二十代後半といったところか。うなじと手の甲さえ見なければ普通の人間と変わらないように見える。うなじの目には瞼はあるが睫毛はない。体中に目のある妖怪とは確かこんな感じの目で描かれていたな、と遊佐は昔読んだ絵本の記憶を辿る。その目は常にぎょろぎょろとあちこちを見回している。正面でユズリと会話しているクチナワの顔についた両目とは全く違った動きだ。
「ねぇ、クチナワはまだこの町にいる?」
ユズリは唐突にそんなことを口にした。クチナワは軽くユズリを見たがすぐに視線を火薬に落とした。
「さぁな。少なくとも今のところ冥府に行くつもりはねぇな」
冥府に、と言うことはクチナワは本来ならば既に死んだ存在なのか。
「じゃあ私が管理者になるまでいなよ。私の方がお父さんや折継より立派にこの町を管理できるってこと、クチナワの前でも証明してあげるから」
「お前が管理者になるまでって言うとまだ随分先の話だろ? そんな先のことまで保証できるか」
「そんなの分からないじゃない」
「お前は長生きしろよ。シノは管理者には早すぎた」