クチナワ 5
全く愛想のない客と店主の会話に、ユズリは呆れがちに言った。
「無愛想が二人もいると、こっちまで顔の筋肉が凝り固まっちゃいそう」
「そうしたら弛緩剤になる薬を売ってやるよ」
黒い粉を麻袋に詰めながら淡々とクチナワは答える。ユズリの皮肉になど慣れているのだろう。かわし方に余裕を感じる。
「私の世界だと筋弛緩剤って毒物のイメージも強いんだけど」
「薬ってのは使用法次第で毒にも薬にもなるもんだ」
「そりゃまぁそうだけどね。でもクチナワの薬は問答無用に凶悪な毒も多いじゃないよ」
「害虫退治のための薬だからな」
「クチナワの言う害虫ってのは人語を話して二足歩行する奴も含まれてそう」
「さて。どうだろうな」
何だか目の前で随分と恐ろしい会話が交わされていた気がするが、やはり気のせいではないのだろう。なるほど。裏通りに入った時の男達の怯えようの理由が垣間見えた気がする。
それにしてもユズリは随分この男に対し好意的だ。明日には全世界が滅ぶのではないかというくらい珍しい。辺りにに浮かぶ提灯に照らされる顔はいつものような仏頂面ではない。それだけでも奇跡のような気がするのに、皮肉めいたクチナワの言葉に皮肉で返さない、おまけに怒り出さない。あの傲岸不遜な態度がなりを潜めている。
……一体何事だ。
不気味すぎて冷や汗が垂れそうだ。
その間もユズリは店先にしゃがんで恐ろしいほど上機嫌にクチナワに話しかけている。
「それでさっきまで折継のバカに会ってたの。もうね、あいつ本当にバカ! また身体欠損までさせてね。いくら無認可者相手だからってやりすぎだって思うのよ。代表者があんな無法者でどうするのよね」
「あいつの噂は裏通りでも随分聞こえてくるな」
「悪名高い奴よね。相変わらず女装して男を騙して遊んでるし、何であんな奴が代表者だなんてうちのお父さんも頭がおかしくなったとしか思えないわ!」
「シノの判断だ。間違っていることはないだろう」
「クチナワはお父さんを過大評価しすぎじゃない?」