クチナワ 4
「ユズリだってば。いつまでもお父さんのオマケ扱いしないでって言ってるでしょ?」
「そりゃ悪かったな。で、今日は何の用だ? 管理者の警告通り、最近は商品も客も選ぶようにしてるぜ?」
「それは結構。で、今日のご用はその管理者から代表者のクチナワへお手紙」
そしてユズリは達筆な字でクチナワと書かれた封筒を彼に差し出した。
クチナワはそれを受け取ってから、ユズリの後ろにいた遊佐に目を止めた。
「何だ、珍しいな。男連れか」
別に不機嫌ではないらしいが、無駄に威圧的な風貌と抑揚に欠ける声のせいで愛想良くは見えない。遊佐もそれに関しては人のことを言えないが。
「遊佐っていうの。人探ししてるんだってさ。赤い打ち掛けに赤い束巻きの脇差持った迷子、知らない?」
「さあな。残念ながらそれっぽいものはお目にかかったことがない。情報屋でも当たったほうが確実じゃねぇか?」
「まぁね。ま、それはそれとして手紙見てよ。何か集会あるみたい。八卦院がそんなようなこと言ってた」
「八卦院もか。俺まで召集される集会ってのも久々だな」
さしたる関心もなさそうにクチナワは封を破って中の便箋を開いた。
「……確かに。集会の召集だ」
「ちゃんと出席してよ? あんまり無断欠席が多いと代表者権剥奪されるからね」
「わかったわかった。それはそうとせっかく来たんだ。何か買っていけよ」
「えー別に欲しいものないんだけど……ああ、遊佐。あんた確か今、火縄銃持つために許可を申請してるじゃない。どうせ許可は下りるから、今のうちに火薬でも買っておいたら?」
「ああ……そっか」
危険を身を以て経験したこの町では、護身のために何か持っていたほうがいいだろうと助言してくれたのはユズリだ。その場でシノに許可申請を出し、一応手順を踏むからまだ時間はかかると言われたが申請が通ることは決定事項らしい。こういう時管理者の娘を道案内にもらってよかったと思う。
「火薬な。じゃあこれなんてどうだ? 少量で通常の倍以上遠くまで飛ばせるし破壊力も上がる。安くしといてやるぜ?」
にこりともしないが、商売人らしい言葉だ。
「じゃあそれをもらう」
「毎度あり」