クチナワ 2
「そ、そこのつきあたりを右に行ったところで今日は見かけた」
「そう。ありがとう」
どこにも謝意など感じられないような素っ気ない声でユズリは言い、男の指差した路地の奥へと歩き出した。遊佐も黙ってその後に続く。
そうも簡単に信じていいものなのかと疑問に思ったが、背後からひそかに聞こえてきた言葉にいらぬ心配だったことを知った。
――管理者の娘だよ。間違いねぇ。あんな態度でかい小娘なんて二人といねぇよ。
――あれだろ? この間の刀狩番付で折継と並んだ記録を打ち立てた女だろ? あんなナリしてよう、気に入らない奴は容赦なくぶった斬るって話だぜ?
――マジかよ。あんなガキが?
――バカ! 聞こえたらどうすんだ! いいか、あのガキには関わらない方が身のためだ。何つっても背後に管理者もいやがるんだからな。触らぬ神に何とやらだ。
――ったく。クチナワに折継にあのガキに、管理者の周辺てのはろくな奴がいねぇ。
なるほど。日頃のユズリの素行に加え、こんな場所でも多大な影響力を持つシノの存在あってか。そしてこれから会いに行くクチナワとやらも彼女らと同類らしい。
「随分有名人なんだな」
「管理者の娘だし、うちはこの町と縁が深いからね。前回の刀狩番付で記録更新したからまた少し名前が売れたわ」
まっすぐ前を向いたままユズリは大した興味もなさげに答えた。
「刀狩番付?」
「一言で言うなら、誰が一番刀狩りましたランキング」
「ああ、そう言えば刀狩好きなんだっけか」
確かシノが以前そのようなことを言っていたはずだ。
「報償もらえるしね。無法者はムカつくし、たまには刀振らなきゃ勘も鈍るし。まさか昼の世界で斬り合いなんてできないし」
「銃刀法違反で即逮捕だな」
「そういうこと」
ユズリは当たり前のように答えるが、彼女なら昼の世界では木刀でも携えて歩いていそうだ。さすがに口に出しては恐ろしいので言わないが。