クチナワ 1
その暗い一本道を入れば急に辺りが薄暗くなる。外から見た時のように真っ暗闇というわけではないが、やはり大通りよりも暗く明らかに大通りとは違った空気だ。目深に外套を被った者、値踏みするような視線を送ってくる者、遊佐たちの存在など気にも留めない者とまばらにだが人通りはあるが、どこか閑散とした雰囲気で、時折白い鬼火がふわふわと浮いている。
遊佐は隣を歩くユズリを横目で見た。心なしか彼女の表情はいつもより厳しく、必要以上に伸ばされた背筋から緊張が伝わってくる。
裏通りは危険な場所で一筋縄ではいかない連中がたむろしていると聞いてはいたが、常に饒舌なユズリが黙って道を歩くとは。裏通りの雰囲気の悪さよりむしろそちらのほうが驚きだ。
「ハハッ。見ろよ、ガキが火遊びに来たぜ」
「悪いこたぁ言わねぇからとっとと帰った方が身のためだぜ。逢引きならよそでやんな」
道往く二人に下卑た声がかけれらても、ユズリは眉ひとつ動かさず彼らの声に足を止めることもない。
「おいおい。せっかく親切に忠告してやってるのに無視かぁ?」
「かわいくねぇガキ共だな、おい。ここらは乳臭ぇガキが来るには百年早ぇぞ」
顔中を包帯で覆った緑色の皮膚をした男がユズリの肩に手を置いた。
ユズリは眉間に一本皺を刻みながら男の手を払い落し、まっすぐに男を見上げた。
「クチナワはどこ?」
「あ?」
「薬種問屋のクチナワ。今日はどこにいるの?」
ユズリの問いに、明らかに狼狽した様子で男達は顔を見合わせた。
「……あいつの居場所なんて聞いてどうするんだ?」
「会いに行くに決まってるでしょ。そうでなければわざわざこんな所に来たりしないわよ」
ユズリは眉を吊り上げて辺りを見回した。
「お前ら、まさかあの野郎の知りあいか……?」
「浅い付き合いではないつもりだけど」
堂々と言ったユズリを見て男達はさらにざわめき、一人の男が意を決したように路地の奥を指した。




