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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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折継 10

 なぜこの男はこうまでもユズリを怒らせてくれるのか。町を出るまで彼女と行動を共にすることが原則の身にはだいぶ迷惑だ。まずは何とかしてユズリを折継を離れさせるべきだろう。

「ユズリ」

「何っ!?」

 いっそ天晴れなまでの怒りっぷりにこれ以上関わりたくない気持ちがむくむくと溢れてくるが、残念ながらそうもいかない。この調子で放っておけばいつまで経っても用事がすまないだろう。

「手紙を届ける相手はまだいるんだろう? そっちはいいのか?」

 とりあえずの遊佐の言葉にユズリははっとしたように遊佐のほうへ振り返った。まさかとは思うが、怒りで我を忘れたついでに手紙のこともすっかり忘れていたのか。

「い、今行こうと思っていたところ!」

 ユズリは誤魔化すように大きな声で言ってからもう一度折継を睨めつけた。

「私はまだ用事があるの。今日は見逃してあげるけど、次に過ぎた狩り方をしていたら管理者に直談判してあんたを出入り禁止にするようにしてやるわよ。あんたみたいのがいたらこの町の治安は悪化の一方よ」

「手厳しいねぇ」

 折継はくつくつと笑ってから、手にしていた大刀を差し出した。

「そうそう。この刀、俺には使いにくかったから八卦院に返しておいてくれないか? やっぱ俺にはこれが一番いいや」

 そう言った折継の視線の先には一振りの脇差。つい先ほどユズリの太刀を受けたばかりのものだ。

「自分で返しに行けば? だいたい八卦院が引き取り拒否したらどうするのよ」

 ユズリは憮然と答え、差し出された大刀を受け取る気配も見せない。

「それはユズリに任せるよ。ってわけでよろしくな」

 にこやかに折継は言い、強引にユズリの手に大刀を握らせた。そして満足げに笑った。

「うん。華やかな意匠だし、ユズリに似合うな」

 その声音に揶揄や嫌みは感じられない。恐らく純粋な褒め言葉に、ユズリも渋々と握らされた大刀を納めた。

「じゃあ俺は番所でさっきの無認可の奴について話してくるからこれで。またな」

 意外なほどあっさりと折継はその場を後にした。

 やはり変わった男だ。

 ユズリは納めた大刀を複雑な顔で見ていたが、顔を上げて折継とは反対方向へと足を向けた。

「行くわよ」

「刀は返さないのか?」

「基本的に八卦院の本店に返品制度はないの。逆に引き取り料取られちゃうもの。だったら私がこのまま使ってあげた方がいいでしょ?」

 そう答えたユズリの声はさっきまで不機嫌さをまるで感じさせない軽やかなもの。

 これは機嫌が直ったということか。彼女という人間はわかりやすいのか、わかりにくいのか。

 ユズリは代表者というのは曲者の寄せ集めと言っていたが、その曲者の中には間違いなく彼女も含まれている。もっともユズリ自身は決して認めないだろうが。




 折継編これにて終了です。自分の書いたものの中で女装男が出てきたのは初です。歌舞伎の女形さんの美しさは本当にため息ものなので、折継もぜひそんな感じで皆さまの脳内で変換していただけると幸いです。性格は大変性悪ですが、外見なら一級品なんです、たぶん。

 しかし改めて考えてみるとユズリは怒ってばっかりですね。絶対カルシウム不足です。もう少し冷静になると折継とももうちょっとうまくやっていけるのではと作者ながらに思ってしまいます。

 それでは若干血なまぐさくもなってしまった折継編におつきあいいただきましてありがとうございました。

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