おつかい
町の中心にある塔で静かに燃える炎は濃紺。あれは町の外の空の色と同じように変化していくらしく、あの色からするに外は今が真夜中であることを示している――とは目の前を歩くユズリから聞いた話だ。
「あぁ嫌」
いつも背筋を伸ばして歩く彼女が、今日に限ってはやや猫背。うんざりとした様子で町を歩く。
「そんなに嫌なのか」
一応声をかけてみると、彼女はぴたりと立ち止まって勢いよく彼に振り返った。
「ものすごく嫌!」
つい先ほどシノから言い渡された「おつかい」。その内容は確かにおつかいだった。遊佐はシノの常に張り付いたような笑顔とその口から告げられたおつかいの内容を思い返した。
――この手紙を町の代表者たちに渡してきてほしいんだよ。何、あまり多いと大変だからね。この数通でいいよ。皆ユズリも面識のある相手だから簡単なものだろう? ああ、ついでに遊佐くんに町と彼らを紹介してあげなさい。
子供のおつかいだろう。間違いなく。
何度思い返しても遊佐はそう思うのだが、当のユズリにとってはそうではないらしい。
「この町の代表者なんて、お父さん含め曲者を寄り集めた集団みたいなんだから」
ユズリは深く溜め息を吐いてシノから渡された数通の封筒の宛名に視線を落とした。
筆で書かれたらしい字は遊佐でも読むことのできる漢字、あるいは片仮名だ。だが残念ながらそれらの名前にはまるで覚えがない。
「そう言えばこの町に郵便制度は?」
「一応あるわよ。ポストみたいなものがあって、それぞれに担当がいて時間ごとに配達してくれる。でもそれだと今一つ確実ではないけど。途中で配達人……大抵は飛脚って呼んでるけど、飛脚が裏通りに入り込んでそのまま行方不明になったりしちゃうから。本当に大事な要件なら自分で行って直に伝えるのが一番」
そのまま行方不明……相変わらず無駄に危険な場所だ。
口にせずにそう思った遊佐の前方で、ユズリがまた大仰に溜息を吐いた。
「裏通りって言えば、このうち一通は確実に裏通りなのよね。あーあー嫌だ嫌だ。面倒くさい」
ユズリはぼやきながらシノに渡された封筒の宛名に視線を落としていく。
「一番マシなのは……うん、どうせ用もあったしここから行こう」
「で、どこへ?」
遊佐の質問にユズリは胸を張って答えた。
「金物屋よ」




