折継 8
「それって私が小狡い連中より知恵がないみたいじゃない」
「そうは言ってないって。ただユズリは若干単純だからなぁと」
きらきらしい笑顔から吐き出された言葉に、とうとうユズリは刀の束に手を掛けた。
「刀を抜きなさいっ! 今ここであんたとは決着をつける!」
ああ、キレた。こうなっては遊佐にはもうどうしようもない。傍観する以外に術はない。
さて折継はどう出るのか。
予想通りというべきか、空気を読まないというべきか。彼は気の抜けた表情で言った。
「えー面倒くせぇー」
「いいから抜きなさい! 私には構えてもいない人間相手を斬りつける趣味はないの」
「いやいいって。構えても構えなくてもどうせまた俺の勝ちだし」
「……また、ってことは、あんたはユズリに勝ったことがあるのか?」
つい遊佐が口を挟むと、折継は笑いながら言った。
「ああ、もうユズリには何年も負けてない。負けたのは本当にガキの頃だけでさ、少なくともこの八年くらいは負けた覚えなし」
「うっ、うるさいわね! あれはあんたが汚い手ばかり使うから!」
顔を真っ赤にしてユズリが怒鳴り散らす。そして射殺さんばかりの目で遊佐を睨みつけてきた。
「あんたも余計なこと言ってるんじゃないわよ! この馬鹿が調子に乗るでしょ!?」
「相変わらずユズリはお子様だなぁ」
しみじみと折継は呟いた。もちろんユズリがそんな言葉を聞き逃すはずもない。
「誰がお子様よ!」
すさまじい剣幕で怒鳴りつけるユズリに、通りを歩く者たちは災いを避けるように道の端に寄って行った。他者に無関心な町だが、己に害が及びかねないともなれば他者の動向も気にするらしい。
しかし折継にとってユズリの怒りなどさしたるものではないのか、尚も余裕の表情で穏やかに答えて見せた。
「そういうすぐ怒るところと、自分に都合の悪い事実を捻じ曲げて解釈しようとするところが」
まさしくその通りなのだが、子供は自分の非を認めたがらないものだ。例に漏れず、お子様と称されたユズリはますますもって怒りを募らせていく。