折継 7
「ユサ? 普通に名字や名前にありそうだけど本名なわけないよな?」
折継は目を丸くして聞いてきた。
「当たり前じゃない。何わかりきったこと聞いてるのよ」
呆れた様子で言うユズリに折継は軽く溜息を吐く。
「ユズリはどうしてそう刺々しいことばかり言うんだ? そんなんじゃそのうち顔まで刺々しくなるぞ?」
「あんたに対してだけよ」
誰に対してもだろうとは思ったが言わない。言ったら棘で滅多刺しにされる。
「まぁいいや。よろしく、遊佐。師匠から噂は聞いてる。俺も次の管理者候補の一人だから何かあったら言えよ」
折継はユズリの機嫌など気にする様子もなく、遊佐に笑みを向けた。
「師匠?」
「ああ、シノさんのこと。昔からあの人には世話になってるし、俺あの人の跡継ぐ気満々だし師匠って呼んでるんだよ」
笑顔で折継は言う。が、それとは対照的にユズリの表情はますます強張った。
「ちょっと。お父さんの跡を継ぐのは私だって何度言わせる気?」
不穏な空気を背負ったユズリが遊佐と折継との間に割って入った。
この類の話題に関して、ユズリの元々低い沸点はますます低くなる。今も噛みつかんばかりの勢いで折継を睨みつけている。だが折継は余裕の表情で受け流す。
「いやいや。それを決めるのは冥府のお偉方だから」
「冥府のお偉方だってあんたみたいにふざけた奴に町の管理を任せようなんて博打に出るわけないじゃない」
「柔軟性に欠けるユズリより確実に俺のほうが向いてるって」
折継は笑顔で恐ろしいことを言ってのける。恐ろしい男だ。絶対にわざとユズリを怒らせている。横目で見てみれば、案の定ユズリは肩を震わせながら何とか今にも手にした刀を抜きそうなのを堪えているようだった。一応無闇やたらに抜刀しないようにする程度の良識があったのは意外だが。
「あんたみたいなのが管理者になったら途端に町の治安が悪化するわよ」
「ユズリが管理者になったら途端に小狡い連中に付け込まれて町が荒れそうだよな」
にこにこにこにこ。
本当にこの折継というのは大した男だ。笑顔でこれほどまでに人を焚きつけるとは。ユズリの言っていた曲者の寄せ集めというのもなまじ彼女の誇張表現ではなかったらしい。