折継 6
番所の者やらが出入りして慌ただしい店内から出てきたのは大刀と脇差を手にした若い男だ。暗めの茶髪に英字のプリントされたTシャツの上に羽織ったレザージャケットにジーンズと若者らしいありきたりな格好だが、この町では遊佐とユズリ同様若干浮いて見える。
少なくとも外見年齢はユズリよりは若干上、恐らく遊佐とそう変わらない。外見年齢などこの町ではあまり意味はないだろうが。
その顔には薄い笑みを浮かべているが、印象的な切れ長の目ばかりは鋭い。……印象的すぎるせいだろうか。この目を見るのは初めてではない気がするのは。
「あんたなんか百回馬鹿って言ったって知能指数が一だって下がるわけないでしょ」
早速機嫌の悪いユズリが毒づく。
「相変わらずユズリはかわいいくらい可愛げがないなぁ」
男は矛盾したことを言いながらもにこにこと笑っている。デジャビュというやつだろうか。秘かに首を傾げる遊佐に気付いたユズリは怒鳴るような調子で言った。
「あんたまさか、まだこの馬鹿に気付いてないの!?」
「え、あ?」
「この馬鹿がさっきの遊女よ! こいつは女装して馬鹿な男にたかって貢がせて、挙句の果てに刀狩りと称して暴挙を働く無法者なの!」
「さっきの」
改めて男の顔を見てみれば、中性的な顔立ちの中で印象的な切れ長の目は確かに先ほどの遊女と同じで、化粧こそしていないが確かにあの遊女と重なる……気がしなくもない。
歌舞伎の女形を思えば、確かに先ほどの遊女はそれとよく似た雰囲気をしていた。
「女装、だったのか」
言われなければまず気付かなかっただろう。化粧の腕やよく出来た鬘だったせいもあるのだろうが見事な化けっぷりだ。そしてやはりこの町は奇妙で面白い。
男もしばらく遊佐の顔を見てから驚いたようにユズリに目線を戻した。
「何だ。ユズリ、いつの間に男が出来たんだ? どこで引っかけてきたんだよ。師匠は知ってるのか?」
「遊佐はそんなんじゃないわよ。知ってて言ってるでしょ」
「うん。例の人探しの鉄砲打ちだろ?」
平然と男は答えた。それがまたユズリの癇に障り、今にも噴火しそうになっている。
だが男は一向に気にする様子もなく、遊佐に顔を向けてきた。
「そんなわけでさっきはどうも。俺は折継。あんたの名前を聞いても?」
「……遊佐」