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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
16/65

折継 5

 *


 飛天屋の前は一時騒然となった。

 道往く者たちは怯えるように足早に立ち去って行く。ユズリとも対等以上に渡り合ったあの遊女はこの町では名の知れた存在なのだと他の遊女が話していた。

 閑散とした見世の格子に寄りかかりながら横目で隣を窺うと、憮然とした顔で腕を組んだユズリがいる。店を出てから一言も口にはしないが、苛立ちはひしひしと伝わってくる。

 短気で幼い性質だが、彼女の剣の腕は確かだ。実際遊佐も何度も目の当たりにしているし、そのような話は町のそこかしこで聞こえてくる。そのユズリを子供のようにあしらう遊女。

 生きている――実際の意味ではわからないが、少なくともこの町ではそうとしか見えない男の両腕を斬り落とし、それに対し何の抵抗も持たない。

 今さらながら、末恐ろしい場所だ。

 無認可の抜刀、帯刀に関する町の管理の厳しさは知っている。だがそれを差し引いても躊躇うことなく他者を傷つけることができ、なおかつ己を保つことが出来るだけの精神力をもつ相手。

「……最近の女は怖いな」

「は?」

 思わず漏れた独り言にユズリは店を出て初めて口を開いた。

「何か言った?」

 ユズリは眉を吊り上げて遊佐を見上げてくる。

 地雷を踏んだかもしれない。そう思っても後の祭りだ。

「……最近の女は強いんだな、と」

 ここは正直に答えるしかあるまい。下手に誤魔化せばユズリはますます機嫌を損ね、さらには遊佐に当たりに来ることは目に見えている。だが今のユズリには何を言っても同じことらしく、眉をひそめて吐き捨てるように言った。

「何から言うべきか迷うところだけど、女が強くなったんじゃなくて男が弱くなっただけでしょ。それからその最近の「女」は誰を指して言っているの?」

「それはもちろんユズリとさっきの遊女……」

 途端、ユズリは舌打ちした挙句に「また馬鹿が一人」などと呟いた。そして顔を上げてまくしたてるように告げた。

「さっきの遊女の名前はオリツグ。手紙を渡しに来た町の代表者の一人。継橋とか遊女としての名前もいくつか持っているみたいだけど、あいつは遊女でも何でもなく、遊郭で男を騙して遊ぶのが趣味の馬鹿よ。どこが馬鹿かと言われたら一言じゃ言い表せないほどだけど、まず一個上げるとしたら、あの馬鹿の性別について!」

「はぁ」

 気のない遊佐の相槌にも構わずユズリはさらに続けた。

「いい? あの馬鹿は」

「バカバカ言ってると自分がバカになるぞ」

 場違いなほどに呑気な声がユズリの声を遮った。

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