折継 3
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遊佐たちが飛天屋と看板を掲げた小さな遊女屋の入り口を引き、店の中へと足を踏み入れた瞬間のことだった。階段の下の奥部屋から轟音と共に小太りの男が転がり出てきた。そして店の人間がざわめく間もなく、赤い影と光が一閃。
次の瞬間には醜い悲鳴が響き渡り、小さな影が男の体から切り離されたかのように赤を撒き散らして舞い上がった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ! た、たす、助けてくれぇっ」
小太りの男の肌蹴た着物の袖からは血が滴り落ちる。その袖に本来通されたはずの腕を見ることはできない。男は両の肘から下が無い。男から舞い上がった影……肘から先の腕の片方は赤く濡れて遊佐のすぐそばに転がっていた。
事態を理解した遊女達が甲高い悲鳴を上げ、我先にと入口へと逃げてくる。
そんな中、遊佐はひとりそこに立ち尽くしていた。男の後に奥部屋から現れた、赤い着物を纏った長身の女。――それは遊佐がこの町へ足を踏み入れた目的そのものか。
そう意識すれば、ソレから目を逸らすことは出来ない。抜き身の刀を手に、廊下を必死に這ってくる男に冷ややかな視線を向けた遊女。
――赤い打ち掛けに赤い束巻きの脇差を持った、真っ赤な唇の女。
赤に笑む、赤を愛した――……。
「あれはあんたの探している奴じゃないわよ」
狂乱の中に場違いな程落ちついた声が遊佐の思考を遮る。
つられるように遊佐が顔を上げると、厳しい表情をしたユズリが遊佐を見ていた。
「あれはあんたの探している奴じゃない。あれは――」
強い語調で念を押すように繰り返したかと思えば、ユズリは滑るように大きく踏み込んでいた。長い髪が宙を舞い、左手に握られていた鞘から刀身が抜かれる。抜かれた刃は赤い衣の遊女へと向かっていく。
全ては一瞬。
ユズリが抜刀したのも、赤い遊女が手にしていた脇差で己に向けられた刃を防いだのも。刃同士がぶつかり合う硬質な音がして、ようやく一瞬に起きたその出来事を理解するに至った。
「私の探していた奴よ」




