折継 1
これから始まる『折継』には残酷な描写を含みます。苦手な方は閲覧をお控えくださいますようお願いいたします。
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徳利を手に微笑む姿は艶麗。艶めいた切れ長の漆黒の双眸。白く塗られた肌に主張する紅の引かれた形よく弧を描く唇。遊女らしく化粧は濃いが、男が見てきた女達の中でも一、二を争う美女だ。これほどの器量ならば最高位の遊女であってもおかしくないだろうに、目の前の継橋という名の遊女は新入りらしく、気に入りの遊女の手が空くまでの繋ぎとしてやってきた。今でこそそのようだがいずれは彼女もまた高位の遊女となり、大枚を叩かねば顔も拝むことが出来ぬようになるのだろう。
仄かに辛みのある香りが緋色の地に地獄絵図を描いた着物から漂ってくる。頭の芯から痺れさせるような蟲惑的な香だ。
「さ、どうぞ」
継橋は少し低めだが澄んだ声で酒を勧めてきた。男は遠慮なく手にした盃を飲み干す。すると継橋は眦を下げ、感嘆の声を上げた。
「よい飲みっぷり」
言葉少なな彼女は率直に褒めてくる。同じ言葉でも、雄弁な者より口数の少ない者からのほうが嬉しいものだ。男は気をよくして更に酒を呷った。
その都度継橋が喜ぶので、一升瓶を何本も開け、気付けば本命であったはずの遊女の存在などすっかり忘れ、足もとも覚束ないまでに酔いが回っていた。
「旦那様は御酒にお強いので」
継橋は酒を片づけながら笑む。
「何、これくらい男なら当然だ」
自分でも何を言っているのかよくわからないが、とにかく気分がいい。こんなに良い気分で酔ったのは久々だ。
男は畳の上に寝転がって上機嫌にくつろいでいた。
「そう言えば」
ふいに継橋が口を開いた。
「御酒に悪酔いされて、御法度の刀をお抜きになる方もいらっしゃるそうですよ。怖いものです。旦那様がそのような方でなくてわたくしは嬉しゅうございます」
「そりゃあそうだ。俺はそんな野蛮な奴じゃないぞー」
大口を開けて笑いながら、男は継橋の肩に手を置いた。
「それより、青桐はもういい。今度からはお前を贔屓にさせてもらおう」