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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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八卦院 8

「折継」

 瞬間、すっかり生気をなくしていたユズリの目がかっと見開かれる。勢いよく八卦院の前まで歩いてきたかと思えば彼の細い肩に両手を置いた。

「……あいつが買って行ったの?」

 その声は先ほどの八卦院にも負けないほどに低い。ユズリというのは実に喜怒哀楽に富んだ女だ。

「お、おう。昨日、ふらっと来て適当に見て、じゃあこれくれって……」

 彼女の勢いに気圧されたかのように八卦院は目を泳がせる。

「先月の刀狩りの報酬が出たら絶対あれを買うって決めてたのに……そのためにせっせと刀狩ったのにっ!」

 獣の咆哮のごとき勢いで叫んだかと思えばユズリは勢いよく八卦院の肩を揺さぶり始めた。

「あいつは今どこ!? 今日はどこをほっつき歩いてるの!」

「し、知るかよ……刀を新調していったってことはか、刀狩りじゃないのか……」

 体をがくがく揺らされながら八卦院は律義に答える。それで彼女が満足したのかはしれないが、八卦院の肩から手が離された。

「わかった。じゃああいつから直接買い戻せば問題ないわけね」

「売れた商品については責任負わないからな。当事者同士で勝手にやってくれ」

 乱れた襟元を正しながら八卦院が言うと、ユズリは勢いよく手近にあった太刀を手にして踵を返した。

「これ、しばらく借りるわ」

「おい。金は」

「後払いでよろしく!」

「あんまり遅くなったらシノに言うからな。ちゃんと返しに来いよ」

 八卦院の苦言もそこそこにユズリは踵を返した。彼女の案内の下で町を歩くよう言われている遊佐も八卦院に軽く頭を下げ、その後を追った。

 そして再び静寂の訪れた店内で元白狐の金物屋は今更ながら、ユズリに話したことはまずかったかもしれないと軽く後悔し始めていた。

 町の問題児二人の間に火種をつけて放り投げた形だ。こればかりは二人次第だが、せいぜい二人が大人の対応をし、他者へ被害が広まらぬことを祈るばかりだ。

 売った品物は彼の物ではなく、彼が責任を負うこともない。彼の流した品物がどのような面倒事を起こそうと彼が関知することはない。

「しかしユズリを焚きつけたのはまずかったか……」

 これで彼女が面倒のひとつも起こせば、間違いなくあの管理者から嫌がらせを受けることになるだろう。火のついたユズリを相手にもう一人の問題児が煽るような真似をしないでくれればいいが。

 そう思ってから、それは無理だろうと結論が出て八卦院はもう一度溜息を吐いた。

 考えてどうこうなるものでもあるまい。町で金物屋を営み始めて数百年。面倒な顧客はいなかったわけではない。ユズリ達はその中でも上位の位置するだろうが、この町で商売する以上、それくらいは覚悟の上だ。

「俺が楽しめる範囲の面倒事で済ませてくれよ。餓鬼ども」




今回で八卦院編? はおしまいです。そして次の奇人変人曲者の話へ移りたいと思います。

この迷い~の世界観自体が全力で趣味に走って生まれたものなのですが、出てくる登場人物たちにも本当に好きな要素を好き放題ぶち込んでいます。八卦院は迷い夜行を書いた後最初に生まれた奴です。あー変な奴になっちゃったなぁと当初は思っていたのですが、次に書く奴に比べたら八卦院はまともです。恐ろしいことに。

それではここまでおつきあい下さったあなたさまには心より感謝を。よろしければ続きもおつきあいいただければ嬉しいです。

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