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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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序章

こちらは『迷い夜行』の後日譚になりますので、できれば先に『迷い夜行』をお読みください。

 夜だけの町。そこは生と死の狭間の町。三途の川の中州なかすにいつしか人が集まり、町の体をなした場所。ここに昼はなく、生も死もない。あるのは空虚なまやかしの享楽と隣り合わせの闇。

 町には多数の橋があり、その橋がそれぞれ生きる者の世界に繋がっている。それは自身の生まれ育った日の当たる世界かもしれないし、全く知らない世界かもしれない。

 様々な世界の生と死の中継地。それがこの町だ。

 町には管理者と呼ばれる者がいる。その名の通り町の先にある死者が行くべき場所、冥府から町の管理を任された者だ。町の管理者の意思はすなわち冥府の意思だ。その意に逆らうことは冥府に逆らうことを意味するのだという。

 そして当代の町の管理者は八年ほど前に死者となった男、生前より町に踏み入ることが可能であった特殊な人間で、町での通り名をシノという。そのシノには町での仮初の名をユズリとする娘がおり、その娘もまた生者でありながら町とこの世を行き来する人間だ。

 これがつい先日、町に足を踏み入れたばかりの遊佐ゆさが最初に深くかかわった二人だ。




「おつかいを頼みたいんだよ」

 実父であるシノの笑顔にユズリはこれ以上ないほど顔をしかめた。せっかく顔立ちは悪くないというのに、と遊佐は胸の内で呟くが後が面倒なので口には出さず成り行きを見守ることにした。

「他を当たってください」

 ユズリはみたらし団子を持ったまま顔を反らした。しかしシノは笑顔を崩すことなく、もう一度言った。

「おつかいを頼みたいんだよ」

 穏やかな声音だというのに、シノの言葉は強い。逆らう気が根こそぎ奪われるような強さがあるから不思議だ。

 つい最近彼と知り合ったばかりの遊佐よりも、娘であるユズリはそれを嫌というほど知っているのだろう。串に刺さっていたみたらし団子を一気に口に入れるとそのまま縁台を立ち上がり人ごみに紛れようとした。したところでシノはその笑みを一切崩さずさらに言った。

「ユズリにおつかいを頼みたいんだよ」

 紛れようと右足を前に出したところでユズリのあらゆる動きは停止した。そして心底嫌そうにシノに振り返った。

「……おつかいって?」

 シノは一度にこりと笑った。

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