第七話
『ソーラーソード!』
剣が黒く膨らんだ部分を正確に切り裂く。
「グアアアアアア!!」
黒い霧のような菌が噴き出し、ギルドマスターの巨体が地面に倒れた。
森は静まり返る。
数秒後。
「……ぐっ」
ギルドマスターがゆっくり目を開けた。
「ここは……」
「ギルドマスター!!」
ミリスが駆け寄る。
ガルドも息を吐いた。
「助かったのか……」
その時だった。
パン……パン……パン……
ゆっくりとした拍手の音が森に響いた。全員が振り向く。そこに立っていたのは魔菌ヘヴィクムだった。黒い体を揺らしながら笑っている。
「見事だ。我が菌の巣を一瞬で見抜くとは」
冒険者たちが武器を構える。だがヘヴィクムの視線は――リンネだけを見ていた。
「……まさか」
低く呟く。
「太陽の戦士」
周囲がざわつく。
「知ってるのか……?」
ヘヴィクムはゆっくり言った。
「ライダー……リンネ」
ミリスの顔から血の気が引いた。
「……え?」
ガルドが振り向く。
「おい、なんであいつお前の名前を」
ヘヴィクムは目を細める。
「ありえんな。貴様は、確かに死んだはずだ」
森の空気が凍った。
ミリスの手が震える。
「……死んだ?」
エナが小さく言う。
「どういう……」
ヘヴィクムは笑った。
「忘れたとは言わせんぞ。我が禁忌、死の血塊」
ヘヴィクムは続けた。
「我が命と引き換えに貴様の命を奪った。貴様は、確実に死んだ」
誰も動かない。
ミリスがゆっくりこっちを見る。
その目は――さっきまでとは違っていた。
「……リンネ……さん?」
声が震える。
「今の……嘘、ですよね」
答えない。その沈黙が、余計に空気を冷やした。
ガルドが一歩下がる。
「おい、冗談だろ。死んだってどういう意味だ」
ヘヴィクムが笑う。
「理解できぬか?」
指をさす。
「そいつは、一度は死んだ人間だ」
その言葉にミリスがビクッと肩を震わせた。
エナが小さく後ずさる。
「……そんな」
ガルドも顔をしかめる。
「おいリンネ。説明しろ」
「……ああ。俺は、一度こいつに殺された」
ガルドが低く言う。
「……お前、何なんだ?」
ヘヴィクムが笑う。
「面白い状況らしい。貴様、仲間に話していなかったとはな」
ヘヴィクムが肩をすくめる。
「今日は退こう。だが、太陽の戦士」
黒い霧が広がる。
「貴様と我はまた、戦う運命らしい」
そのまま霧となって消えた。森は静まり返る。誰もすぐには動かなかった。
エナがリンネを見る。その目にはさっきまで無かったものがあった。
警戒。
ミリスも、同じだった。ミリスが一歩近づこうとして――
止まった。自分でも理由が分からない。
さっきまでなら、迷わず隣に立ったのに。足が動かない。
「リンネさん……」
小さく呼ぶ。リンネは振り向く。
さっきと同じ顔
さっきと同じ声
それなのに、胸の奥がざわつく。
「あなた……本当に、人間なんですか……?」
その言葉に、周囲の冒険者がざわめいた。
誰も、否定できない。
ガルドが腕を組む。
「……俺も聞きたい」
見る目は鋭かった。
「あいつはお前は死んだって言った。どういうことだ」
ギルドマスターがゆっくり立ち上がる。
まだ体はふらついている。だが目は鋭い。
「命を救ってもらった恩はある。だが、ギルドとして、正体不明の者を放っておくわけにはいかん」
森の空気がさらに重くなる。ゆっくり息を吐いた。森を見上げる。
木々の隙間から光が差している。
「……ああ。説明する」
視線を下ろす。
「俺と、ヘヴィクムのことを」
「俺は……別の世界の人間だ」
その言葉に誰も声を上げなかった。
だが――空気が重くなる。
ミリスの手がぎゅっと握られる。
「やっぱり……」
小さな声だった。ヘヴィクムの言葉が頭に残っている。あれは嘘じゃなかった。
ガルドが低く言う。
「……つまり」
「さっきの化け物の話」
「本当ってことか」
うなずいた。
「俺の世界であいつは疫病をばら撒いた。街も国も人も。全部、壊した」
拳がわずかに握られる。
「だから俺はあいつを殺した」
静かな声。
「……相打ちだった」
森に風が吹く。
ミリスが小さく言った。
「じゃあ……リンネさんは本当に……」
「一度、殺された」
誰も言葉を出せなかった。しばらくして。
ガルドがため息を吐く。
「……信じろって方が無理だな」
正直な言葉だった。皆は俯く。怖い。
ミリスはゆっくりと顔を上げる
「でも……リンネさんは、私たちを助けてくれました……!」
周囲がミリスを見る。ミリスは続ける。
「それだけは、嘘じゃない」
ギルドマスターが腕を組む。
「……ふむ」
しばらく考え。そして言った。
「お前の話、ギルドで詳しく聞こう。このまま森で話す内容ではない」
俺を見る。
「逃げる気があるなら今のうちだ」
森に風が吹く。
「逃げない」
静かな声。
俺は森の奥を見る。
ヘヴィクムが消えた方向を。




