第六話 不穏
数分後。
リンネたちは森に来ていた。
しかし。
静かすぎる。
鳥の声もない。
風の音だけ。
ミリスが小さく言う。
「……変です」
「本当に何もいない」
ガルドが眉をひそめた。
「スライムの巣がある場所だぞ、ここ」
リンネは地面を見る。
そこには、真っ黒に染まった地面があった。
リンネがしゃがむ。
「これは……」
「黒く変色したスライムの遺体か?」
ミリスが震える。
「ま、まさか強いモンスターが…?」
その時。
リンネが地面の奥を見た。
そこには
黒い球が転がっていた
「これは…」
それは直径5センチほどの黒い球だった。
「スライムの核か」
ガルドは驚いた。
「スライムの核⁉︎でもスライムの核は青かっただろ」
そんな中、リンネは既視感を覚えた。
「ま、まさかこれは」
そうとしか考えられなかった。
スライムの核――人間で言えば心臓。
それが黒く染まると、宿主は死ぬ。
「魔菌ヘヴィクム…」
それはかつてリンネが命をかけ倒した相手が広めた疫病の症状と一致していた。
その時、何もいないはずの森から物音が聞こえた。
「フッフッフ、異変を感じ集まった愚かな培養体どもが」
ヘヴィクムは舌なめずりした。
「菌を育てるにはちょうどいい容器だ」
皆がそちらを向いた。
そこにはあの魔菌ヘヴィクムがいた。
ギルドマスターは青筋を浮かべて言う。
「これをやったのは貴様か。」
「そうだ。そしてまんまと培養体が集まったと言うことさ」
「培養体だと?」
ヘヴィクムは笑いながら言い放つ
「こんな雑魚を少し倒すだけでのこのこと集まってくる低知能のバカにはぴったりの名だろう」
ギルドマスターは剣を構えた。
「ふざけるなあああ!」
ギルドマスターは考えるより先に剣を振り上げていた。その一撃を見て、その場の誰もが、勝利を疑わなかった。ただ1人を除いて。
「やめろお!距離を取れ!」
リンネは叫んだ、だがその声は無常にも届かなかった。
「この世界の培養体第一号よ、おめでとう。」
ヘヴィクムは一瞬で病原菌を体内に発射した。その瞬間。
「グアア」
ギルドマスターは苦しむ。
「フハハハハ、どうやら新しい菌の開発は成功のようだな」
慌てて近くにいた冒険者が近寄った。
「ギルドマスター!どうしたんーー
その言葉が終わるより先に、冒険者の体は真っ二つになっていた。
「キャアアアアア」
「な、何が起こったんだ⁉︎」
皆が焦る中、ギルドマスターは叫ぶ。
「ミンナ、早くニ、げろ、グアアア」
ギルドマスターの目は赤く変色していき、体は大きくなりモンスターのような姿になっていた。
「グアアアアアア!」
剣を振り回し、地面を叩き割る。衝撃で土が跳ねた。冒険者たちは腰が抜ける者、泣き叫ぶ者、神に祈る者など様々だが、だれもギルドマスター止めよう、ましてや戦おうとはしていない。
ミリスが震える。
「ど、どうするんですか……!あんなの……!」
リンネは目を細め、ギルドマスターの体を見つめていた。
「……待て」
ガルドが振り向いた。
「何だよ!」
リンネは首を振った。
「違う……」
ギルドマスターの胸元。
そこだけが、不自然に黒く膨らんでいる。
リンネの顔色が変わった。
「そうか……そういうことか」
ミリスが怯えた声で言う。
「な、何が分かったんですか……?」
リンネは指を差した。
「菌だ」
「え?菌?」
「ヘヴィクムの菌は、いきなり全身に広がるわけじゃない」
ガルドが眉をひそめる。
「どういうことだ」
リンネは静かに言った。
「最初に体のどこかに“巣”を作る」
その言葉に、ミリスが息を呑んだ。
「じゃ、じゃあ……」
「そこを潰せばいい」
リンネはギルドマスターの胸を見据えた。
「広がる前に叩く」
ミリスが悲鳴を上げる。
「来ます!」
リンネは3人に向かって言った。
「皆んな、聞いてくれ。」
「三秒だけ奴の動きを止めろ」
ガルドの顔が引きつる。
「三秒!?相手SSランクだぞ!」
その瞬間。
「グオオオオオ!」
ギルドマスターが巨体とは思えない速度で突っ込んでくる。
「来るぞ!」
ガルドが歯を食いしばる。
「くそっ……やるしかねえ!」
盾を構え、真正面から突っ込んだ。
「止まれええええ!」
激突。
凄まじい衝撃が森に響く。
「ぐあああ!」
ガルドの体が大きく後ろに弾かれた。だがその一瞬、ギルドマスターの動きが止まる。
「今です!」
ミリスが杖を振った。
「ファ、ファイア!」
小さな火が弾けた。小さな火はギルドマスターの顔のすぐ前で燃えている。
「!?」
ほんの一瞬。だが、その動きが止まる。
ギルドマスターが反射的に顔を引いた。
ミリスが叫ぶ。
「リンネさん!」
その瞬間。
リンネはすでに地面を蹴っていた。
リンネはこの三秒で決めるつもりだった。
一瞬で懐に入り込む。
「そこだ」
剣を振り上げる。
狙うのは――胸の黒い膨らみ。
「潰す!」
リンネの剣が光を帯びる。
ギルドマスターの胸へ――
リンネの剣が振り下ろされた。
「潰す!!」
『ソーラーソード!』




