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第1話:最弱の入学試験

雨上がりの学園の庭に、朝日の光が差し込む。草木に残る水滴がきらきらと輝き、風がそよぐ。れんは制服の胸元をぎゅっと握りしめ、深呼吸した。


「どうせ僕なんて……落ちこぼれだし、吸血鬼の血を持ってるから人間からも嫌われる……」

小さな声は、震えと不安でかすかに震える。背後では、同級生たちの明るい笑い声が響く。人間も吸血鬼も混ざったこの学園で、蓮は異端だった。父は吸血鬼貴族、母は人間の聖女候補だったが、母は彼が幼い頃に病で他界。父は貴族の務めに忙しく、幼少期の蓮は孤独だった。


そして今、魔法学園の入学試験の場に立つ。魔力を試す筆記、体力や戦闘技術を試す実技、あらゆる項目で、蓮は他の生徒に比べて明らかに見劣りしていた。「比べる土俵にすら立てない」と教師は影で呟く。


「次、実技試験。魔力を使った演習です」

教師の声が響く。蓮の心臓は早鐘のように打つ。汗が掌を伝い、指先まで冷たくなる。


試験会場に現れたのは、明らかに貴族出身の少年たちだった。その中でも、セバスチャン・ヴァレンタインの鋭い瞳が蓮を射抜く。


「……血も使えない奴が、ここで何をやる?」

冷たく笑うセバスチャンの声に、周囲の生徒もくすくす笑った。


「やめ……やめてください!」

思わず声を出す蓮。しかし、体は硬直し、呪文は指先で散り、宙に消えていく。まるで自分の存在が否定されたかのようだった。


背後で小さな声がした。

「大丈夫……れん君、あなたならできる……」

れいの冷静な声だった。蓮はその目を見る。怜は表情を崩さず、しかしどこか温かい光を蓮に向けていた。


「怪物じゃない……あなたは人間よ」

その一言に、胸が少しだけ熱くなる。けれども、恐怖と自己否定はすぐに心を覆う。「僕なんて……」


試験が開始され、演習場に魔獣が出現した。全身に毛が逆立ち、牙をむく怪物。蓮の仲間が次々と魔獣に追われる。体は硬直したまま、何もできない。心臓が喉まで跳ね上がる。


「危ない!」

叫び声が響き、仲間が魔獣に捕まれそうになる。思わず蓮の体が反応した。血の奥底で何かが騒ぎ、力が渦巻く。無意識に吸血鬼の本能が顔を出す。


――血の衝動。


蓮の瞳が赤く光り、体が震える。恐怖と羞恥で心が押しつぶされそうになりながらも、体は勝手に動く。魔獣の背後に跳び、素早く呪文を繰り出す。血の力が手に伝わり、魔獣の動きを封じた。仲間は無事に逃げ、蓮は自分の手を見下ろす。


「……こんな力、使ってしまった……」

周囲の生徒たちの視線は、恐怖と嫌悪に満ちていた。セバスチャンが鼻で笑う。

「やっぱりお前は怪物だな……」


蓮は膝から崩れ落ち、頭を抱えた。震えながら、涙が頬を伝う。血の力を使った自分は、もう人間ではないのか――


「泣かないで……れん君」

怜の声が、耳に届く。肩にそっと手が置かれた。

「あなたは、人間の心を持ったまま戦ったのよ」


蓮は涙を拭い、顔を上げた。怜の瞳は真剣で、しかし優しかった。


「……僕、人間でいたい」

小さくつぶやく。その言葉に、怜は軽く頷いた。

「そう。なら、私が見ているから。あなたは人間よ」


蓮は胸に決意を刻む。弱くても、血に頼らずとも、仲間を守るために立ち上がる――それが彼の生き方だ。


その日、蓮は知った。魔力の強さだけが全てではない。勇気と仲間を信じる心、それこそが本当の力だということを。


そして、まだ見ぬ学園生活の幕が、蓮の前に静かに開かれた。



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