佐藤と凛子
「僕はどうしたらいいんだ…」
昼休み。
自販機で飲み物を買った帰りに落ち込んでいる生徒を見つけた。
「何をしてるの?」
漫画みたいなあからさまな落ち込み方をしていたからつい話しかけてしまった。ネクタイの色が涼木と同じだということは1年生なのだろう。
「え!?」
「あ、急に話しかけてごめんなさい」
「あ、いえ」
「で、何してるの?」
「僕…友達がいなくて」
「そうなの」
彼には申し訳ないが、いかにも友達がいなそうな雰囲気が出ている。前髪が長くて目がよく見えないし、マスクまでしているから顔全体が隠れてしまっている。
「それで彼女に友達が出来る方法を聞いてたんです」
「え…?」
「どうかしました?」
「いや、友達はいないけど彼女いるんだなーって」
そんなパターンもあるのね。きっと非リア充からしたら彼のことが羨ましくてしょうがないだろう。
「ああ、友達もいないのに彼女なんて変ですよね…」
「まあ、珍しいかもね」
「そうですか。ちなみに先輩はどうすれば友達が出来ると思います」
「え…うーん、なんだろ。近くの席の人に話しかけてみるとか?」
私と綾香が話し始めたきっかけも席が近かったからだし。
「今さらですか? もう1ヶ月以上経ってますけど」
「でも話さないと始まらないわよ」
「それはそうなんですけど…やっぱり話しかけづらくて…」
「ああ、それはそうかもね。ちなみに彼女はなんてアドバイスを?」
「こんな感じです」
そう言って彼は彼女とのロインを私に見せてくれた。
・僕でも友達って作れるかな?
・大丈夫です。私にかかれば余裕です! 佐藤さんを友達が100人いる陽キャにしてあげましょう!
・ホント! どうすればいいかな?
・手始めに催眠術を覚えるというのはどうでしょうか? これならコミュニケーション能力を必要とせずに友達を作れます。
・それは洗脳だよ! 別の方法でお願い!
・分かりました。ではお金をあげるというのはどうでしょうか? これなら佐藤さんでも簡単に友達をつくますよ
・寂しすぎるよ! 別の方法でお願い!
・周囲の人間を勝手に友達だと思い込むというのはどうでしょうか? これなら誰とも話さなくても自己完結できます
・悲しすぎるよ! というか! 僕にはマトモな方法では友達が出来ないと思ってない!?
・そうですよ……今さら気づいたんですか?
「なんか凄いね……」
「全然マトモなアドバイスをくれなくて」
いやいや……
彼女ってAIの『凛子』じゃん! しかも想像以上に賢そうだし、主人のこと滅茶苦茶バカにしてるし……もはや自我を持ってるんじゃないかって疑うぐらいだ。
「確かに参考になりそうなアドバイスは無かったわね」
「はい。それに僕はどうしても友達が欲しいわけじゃないんです」
「そうなの?」
「別にスマホがあれば時間なんていくらでも潰せますし」
「まあ、スマホは偉大だよね。私もインドア派で休日は寝て過ごしたい人間だから分かるよ」
それに私も前世の高校時代は話せるクラスメイトがいなくて、スマホが友達だった時期もあるからよく分かる。
「だから本当に嫌なのは友達がいないことじゃなくて、人がたくさんいるクラスの中で1人ぼっちな自分なんです」
「そうだよね。居づらいんだよね」
めっちゃくちゃよく分かる。私もずっと1人で周りを気にしない振りしてスマホいじってた。
周りが皆んな友達と話しているなかで自分だけ1人といういたたまれなさはヤバい。
「意外です。先輩もそういう時があったんですね」
「え?」
「先輩みたい美人が僕に共感してくれるなんて」
「ま、まぁね」
今世の話しではなく、前世の話しなのだけど。
「どうすれば教室で話す相手を見つけられますかね?」
「現実的な話しをするなら、趣味の合う相手を見つけるとか」
「趣味ですか」
「そう。なにかある?」
「まあ、アニメとか漫画は好きですね」
「へー、例えば?」
「最近だと『貴方の好きなジュースはなんですか? 自動販売機に転生した俺はジュースを売りまくる』ですかね」
「え、そのアニメ私も見てるわ!」
「本当ですか!? 面白いですよね」
「ええ! 私は敵キャラに下剤入りジュースを飲ませて、大事な場面で大惨事を引き起こさせたシーンが好き」
「いいですよねあのシーン! あのクズが社交界で糞尿まみれになるシーンはスカッとしますし!」
「そうそう」
・・・
「あ、もうすぐ昼休み終わるから私は戻るね」
趣味の話しで盛り上がっていたら、いつの間にかいい時間になっていた。
「分かりました」
「どうせならロイン交換しようよ」
「え、いいんですか?」
「うん。私からお願いしたんだし」
「そ、それじゃあお願いします」
彼のロインのQRコードを読み取る。
「これからよろしくね。今さらだけど私は佐伯優子」
「は、はい。よろしくお願いします! 僕は佐藤佳明って言います!」
「うん、よろしく」
こうして私は貴重なオタク友達を手に入れた。