嫉妬
なんだかんだで涼木と偽装カップルを始めて2週間が経過した。
涼木と付き合うフリをしていらい、私が男子生徒に告白されることはなくなった。
そういう意味でアイツは役に立っている。
相当な自信がないと涼木に張り合おうなんていう男子もいないだろうし、これからも私が告白されることは少ないだろう。
「そろそろ行かないと授業に遅れるよ優子」
そんな風に考え事をしていたら綾香に声をかけられる。
危ない。次の授業が移動教室だという事を忘れていた。
「うん、今行く」
「にしても移動教室ってめんどくさいよね」
「そうね。わざわざ教室から移動するのめんどくさいわよね」
「そうそう」
「ただでさえ少ない休憩時間が、移動することに消費されるし」
「もう授業が始まってから移動したいよねー。授業が終わるのはチャイムがなった後なのに」
「そうなったらいいわね。まあ、無理でしょうけど」
「日本のよくないところだよねー。開始時間にはうるさいのに終わるのにはルーズっていう」
「最悪よね」
本当にそれはよくないと思う。
「あ」
「どうしたの?」
「あれ涼木君じゃない?」
「あー、そうね。あの顔はそうだわ」
「ほら、いいの優子?」
「何が?」
「彼氏の周りに女の子がうろついてるよ?」
「別に本当の彼氏じゃないから」
私と涼木はお互い目的が合って付き合うフリをしている偽装カップルだ。
だから別にアイツが他の女子とイチャイチャしてようがどうだったいいし、どんなにイケメンだろうが私は男と付き合う気はない。
だから私には本当に関係ないはずだ……
「といいつつも?」
綾香がニヤニヤと私をからかおうとしてくる。
「何もないわよ」
「えー、でも皆んなでカラオケ行こって女子に誘われてるよ」
「何でこの距離で聞こえるのよ」
「女の勘」
「何それ。もしそうだとしても、私には関係ないし」
私には涼木と本当に付き合う気はない。だからアイツが他の女子とカラオケに行こうが気にしない…
はずなのに……何でこんなに胸がモヤモヤするんだろう……
・・・
アイツはクラスの女子たちとカラオケに行くのだろうか?
そもそも本当にカラオケに誘われていたのだろうか?
さっきからそんな事ばかり考えてしまっていて、そのせいで授業にも全然集中できない。
何でこんなにモヤモヤするんだろう。こういう時、漫画や小説のヒロインなら、好きな男を他の女子に取られて嫉妬しているのだろう。
でも、私に限ってそれはない。だって、私が男に恋をするわけないのだから。
ああ、だからこれは逆の感情なのだ。涼木が好きだからモヤモヤしているんじゃなくて、私はただ女子にモテモテなアイツにムカついていただけなのだ。
それ以外の理由なんて私には思いつかないし、これでこの件は一件落着だ。
おかしい…
その筈だったのに落ち着かない。
本当に今日の私はおかしい。
もう、帰りのホームルームも終わって放課後だというのに……何でこんなにも涼木のことが気になるんだろう…どうしてアイツの事ばかり考えてしまうんだろう…
本当にどうかしている。こんなにも涼木に振り回されて…
「綾香…」
ああ、モヤモヤする!
「どうしたの?」
こんな時は甘いものを食べるに限る。
「帰りにクレープ食べにいかない?」
「涼木君と帰んなくていいの? 結構な頻度で一緒に帰ってるよね」
綾香がそんなことを聞いてくる。カップルだとアピールする為に私と涼木がほぼ毎日一緒に帰っているからだろう。
「いい……アイツはカラオケかもしれないし…」
「嫉妬?」
「違う」
そんなわけない。
私が男に嫉妬なんて…
「さっきはああ言ったけど、涼木君が本当にカラオケに誘われてたかは分かんないよ」
「別に涼木のことはどうでもいい。そんなことよりも私はクレープを食べに行きたい気分なの」
「ふーん。本当にいいの?」
「いい」
「涼木君が優子を迎えに来たのに?」
「え!?」
「声でか」
綾香に言われて出入り口を見れば、そこには涼木の姿が。
「先輩一緒に帰ろうぜ」
「分かった」
「何すましてるのよ? さっきまであんなに寂しそうにしてたのに」
「してないし。それよりゴメン綾香。アイツが一緒に帰りたそうにしてるから」
「うん、分かった分かった。行ってきな」
「ありがと。クレープはまた今度」
「そうね。でもそんなに食べたいなら涼木君と行ってくれば」
「それもそうね」
ホントは綾香と2人でクレープ食べようと思ったけど、しょうがないから涼木と行ってあげるか。
「全く。何が私には関係ないよ…あんなに嬉しそうな顔しちゃって。優子のあんな恋した乙女みたいな表情初めて見た…可愛すぎでしょ」