レモンケーキ
「着いた」
涼木に先導されて駅から歩くこと5分。どうやら目的地に到着したみたいだ。
「ここ?」
「そう」
涼木に連れて来られたのは『パティシリー8866』と言う名前のお店だった。
「ここはレモンケーキが有名らしい」
「へぇ、レモンケーキが人気なのね」
確かに店の看板をよく見てみるとレモンのマークが付いている。
普段は王道に行ってしまうので、レモン系のケーキを食べることはあまり無いけれど、別に嫌いなわけじゃないから楽しみだ。
「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか? それともお持ち帰りでしょうか?」
「店内でお願いします」
「2名様でよろしいですか?」
「はい」
「それではこちらへどうぞ」
店員の女性に案内されて窓際の席に着く。周りを見ると席の半分以上が埋まっていて、大半が女性客だった。
「メニュー表はこちらになります。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
「はい、ありがとうございます」
席を案内してくれた店員の女性が去ったのを見てメニュー表を見る。
レモン系のケーキ以外にもチョコレートケーキやチーズケーキなんかの定番の商品もあるみたいだ。
ただ、ショートケーキやロールケーキなんかにはレモンが使われてるみたいだ。
「先輩は何食べるの?」
メニュー表を見ていると涼木に何を頼むのか聞かれる。
「私はこの店オススメのレモンケーキにするわ。アンタはどうするの?」
せっかくレモンケーキが有名な店に来たのだから迷う余地はない。この店の王道をいただくことにする。
「俺もそれにする」
「了解」
お互いのメニューが決まったので、店員のお姉さんを呼んで注文をした。
「そういえば涼木」
ここで私は気になっていた事を聞くことにした。
「何?」
「どうして今日はこのお店に来ようと思ったの?」
「最近女子に人気の店って聞いたから先輩が喜ぶかなって」
「そう…ありがとう」
そっか…私のためか。そういう風にストレートに言われると少し恥ずかしい。だからって、別にコイツに惚れたとかでは断じてない。
「もしかして照れてる?」
「照れてない!」
「そういうことにしとく。俺もスイーツは好きだから先輩と一緒にこれて良かった」
本当にコイツは……どうしてそんな恥ずかしいセリフをサラッと言えるのよ…
「べ、別に1人でも行けるじゃない」
「男で1人で入る雰囲気じゃないでしょ」
「アンタでもそんなこと気にするのね」
「先輩は俺のことなんだと思ってんの?」
「さあ? じゃあ男友達ともでも行けばいいじゃない?」
「もっと嫌だ。野郎ばっかで行くような場所じゃないし」
私がそう言うと涼木は本当に嫌そうな顔をした。男友達と入るのを頭の中で想像してしまったのかもしれない。
でもその気持ちは分かる。実際にこの店もそうだし、パンケーキの店なんかもカップルか女性客しかいなそうなイメージがある。
まあ、男だけでは雰囲気からしてアウェーすぎて入りにくいだろう。
「というか、適当な女の子でも連れてけばいいじゃない。アンタと行きたい子なんていくらでもいるでしょ」
そもそもが誘えば大体の女の子はついていくだろう。
「そうだね」
「そうだね」って、自分から聞いといてあれだけど……ちょっとは謙遜しなさいよ!
「でも、今は先輩の彼氏だから。他の女とは出かけないよ」
「そ、そう」
「だからまた色んな店に行こうぜ」
「まあ、仮にも今はアンタの彼女だから付き合ってあげるわ」