7話 爆鱗蝶
「ふー、食った食った!」
接戦の末、何とか倒したオークを焼いて胃袋に納めたとこで、俺は倒木に腰をかけながら呟く。
「・・・!」
ベリルは満足するまで食ったのか、その身体は二回り大きくなっており、骨になったオークにもたれていた。
オークの骨を齧り、骨を修復するためのカルシウムを摂取しながら、俺は自身のレベルが上がってないかを、ステータス画面で確認する。
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名前:... Lv.6
HP:28/32 MP:8/8
状態:-- 種族:人?
____〔技能〕___
「変体:Lv3」、「適応」、「解析」、
「急加速:Lv2」、「生活魔法」、「咆哮」
____『称号』____
「不運」
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「おっ、やっぱレベルが上がってるな!」
今回のオークとの戦闘と、昨日のトレーニングの経験値が合わさったのか、急加速レベルが上がってることに着目する。
「ふふん、今回の戦闘でコツも掴んできたしな、さらに上手くなる自信があるぜ!」
「・・・!!」
ベリルが賞賛するように俺の前でピョンピョン跳ねる。
「まぁ、今のこの足じゃまともに使えんだろうけどな...」
咄嗟にスキルを発動したせいで、スキルの加減をせずフルぶっぱしてしまったので、脚は赤く腫れている。
「・・・」
しょぼくれる俺を慰めるつもりか、腫れている足に冷たいベリルの身体を寄せてくれる。
「おぉ...尊すぎんだろ...」
懸命なその姿に、俺は心打たれていた。
「"変体"も気づけば3まで上がってるな。」
戦闘中だけでなく、怪我の補修で多用していたが、昨日までレベルが上がる兆しは見えず、レベルが上がるにはなんか特殊な条件があるのかな? と思っていたところに、一気に2レベル上がるのはとても嬉しい。
だが、レベルが1上がるのは、修復に多用していたからおかしいとは思わないが、こんな短時間でもう1レベル上がるのは、少々疑問が湧く。
「理由をつけるとしたら、これか...」
俺は、前腕が肉切り包丁のように変形した左腕をなぞる。
これは、今までの修復、防御と違って、明確に"相手を傷つけるための武器"をイメージして変形させた物だ。
「うーん...ただ変形させるだけじゃなく、色々考えて作んないといけないんかねぇ...」
だと言っても、自身の体を全部総とっかえしてしまったら、それは自分が自分でなくなってしまうようで嫌な感じがする。
なら、身体をメッキメキにムキムキにして、怪物にするのではなく、何か毒とか何かを分泌したほうが、まだ人の形は保ててそうだ。
「そんで、分泌すると言っても、何を出すようにしますか...」
ただ毒を分泌して、敵にかけたり注入したりしても、俺の求めるかっこよさとは何か違う。
悩んでいれば、見覚えのある赤い光群が、木々の奥からうっすらと見えてくる。
「あれは...そうだ!あれにしよう!!」
修復も終え、全身が健康優良児になった俺は、ベリルを抱えて駆け出す。
「・・・?」
「ベリル、お前にも手伝ってもらうぞ?」
草をかき分け、枝を潜り、ついた森の中の小さな花畑では、初日に俺を爆破しやがったあの蝶々らが呑気にそこらを羽ばたいていた。
"あれは、爆麟蝶ですね。ここらではかなり珍しい種ですよ"
よーく見れば、蝶からパラパラと降っている少し輝く鱗粉が、空中でパチパチとはじけるように超小規模の爆発を起こしている。
「いたのかエンサ―、俺さん思いついちゃったんだけど...」
好奇心とあくどい表情を示しながら、俺は提案をする。
「あの爆発鱗粉、俺も作れないかな?」
”なるほど..."解析"スキルを使用し、鱗粉を含めた爆鱗蝶の構造を理解すれば可能だと思います。ですが、解析を使用するには相手に触れてないといけませんが...あの爆鱗蝶の群れに無策で突っ込んでしまうと、軽症では済みませんよ?”
「くっくっく...策はあるんだな....ベリル!風魔法を使って鱗粉を吹き消せ!」
そう命令するとともに俺は爆鱗蝶の群れに向かって駆け出す。
爆鱗蝶らは俺が急接近していることに気づき、警戒してるのか、煌めく粒子の量が増えたようにも感じる。
手が届きそうなまでの距離まで来ると、鱗粉が奇しく輝いて熱を発し始めていた。
「・・・!!」
ベリルの体がほのかに光るとともに、渦を巻く強風が放たれる。
強風は蝶らを巻き込むとともに、鱗粉をはるか前方へ押し出し、鱗粉が木にへばり付くと同時に爆発が生じて、老木はメキメキと音を立てて倒れる。
風で舞い上がり、何とか体勢を持ち直そうとしている爆鱗蝶らのうちの一匹に、俺は狙いを済ます。
「タァーッチ!!」
左手で放たれたその平手打ちは、左手が刃物になっていた事で、最早一閃と化して爆鱗蝶を両断したが、解析を使用して構造を理解するという目的は達成できた。
体勢を立て直した他の爆鱗蝶らが俺に向かって鱗粉を振りかけようと羽根を大きく揺らす。
「ベリル!ブチかませッ!!」
「・・・!!」
俺の号令を聞き、ベリルは先ほどよりも強力な暴風渦を放ち、鱗粉を四方に散らし、爆鱗蝶らバラバラに引き千切って空へ放った。
「やっぱ強くね?お前」
俺はベリルをプニプニと揉み込みながら、賞賛とも取れる疑問をベリルに投げかける。
気のせいかもしれないが、先程の戦闘よりもベリルの魔法の威力が上がっている気がする。
単純にベリルは炎魔法より風魔法の方が得意だという可能性があるかもしれないが、一応解析を使ってベリルのステータスを確認することにした。
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名前:-- Lv.12
HP:24/24 MP:120/144
状態:-- 種族:ウィザードスライム
____〔技能〕___
「火魔法:Lv3」、「水魔法」、「風魔法:Lv2」、
「地魔法」、「溶解」、「再生」
____『称号』____
「天才」、「賢者の卵」
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「成長早ッ!?」
「・・・?」
「はぁーたまげた。んで、鱗粉の解析は済んだけど、実際どうやって鱗粉を出せばいいんだ?」
"一番おすすめするのは、体内にある死滅した細胞などの老廃物に、爆発性を付与する臓器を作るのが、コストも低く、比較的扱いやすいと思いますが..."
「なるほど、なら試してみたいんだけど...構造が分かっても俺には臓器を増やす、といった細かな作業なんてできやしないぞ?」
"許可さえもらえれば、私があなたのスキルを使用して、反映できますよ?"
「わぉ、便利だなぁ...そしたら早速頼む!」
"承知しました"
しばらくして...
"完了しました"
その声と同時に自身の身体をまさぐるが、実際に何かが変わったような感覚はなく、やや奇妙に感じれている
「あれ?全然違和感がないぞ?」
"仮で生成しただけですからね、小さいので違和感はほぼないと思いますが、その分爆薬の威力は少ないですね"
「なるほどなぁ...もう出るんか?爆薬って」
"今から右手の汗腺から分泌させますね"
その発言と同時に、手のひらが湿り、小さな水滴が手の中を転がっていた。
"火や強い衝撃で起爆しますので気をつけてください"
「オケ、それなら一旦試すか」
近くにあった木の幹に、1円玉ほど大きさの水滴になるまで溜めた手汗を塗りつけ、距離を取り...
「ベリル、魔法でそっと着火してくれ」
「・・・」
ベリルに頼むと、ライターから出る火ほどの大きさをした火球を、爆薬を塗りつけた箇所に当てた。
火球が幹に着火した瞬間に、少しの閃光と共にパァン!!と音が鳴った。生じた煙が晴れれば、樹皮が黒く焦げつつ樹皮が剥がれ落ちていく
「すげえ、仮でもこの威力か...けれど、爆薬を溜める時間が長いな...」
一円玉サイズの水滴ができるほどの爆薬を生み出すのにも、少なくとも十分以上は経っている。
臓器をもう少し大きくすればもっと爆薬に生成速度を上げれるらしいが、あまり体内の臓物などをいじくり回すのは、人間の道を外れる恐れがある。
「そう思うと、この左腕もやべえな...まんま改造人間じゃねぇか」
刃先が膝まで届く手刀は、黒い表面に光が反射しており、切れ味は少し悪いが、体重と速度をかければ並大抵の生物は切り伏せれる。
今なら、おそらく元の腕に戻せる。けれど、この森から脱出するには、この腕のようにモンスターに対抗できる武器が必要だ。
だとしても、この腕は取り回しが悪い。
「よし...扱いやすい様に形を変えよう」
俺は意を決し、変体スキルを使う。
まずは、手刀を元の腕の形に戻すのをイメージする。すると、刃となっている左腕の刃先が5つに分かれ、関節を生み出し、鋭く、黒く、大きくはあるが、元の腕の形に近づく。
五指を動かしてみると、キャリキャリと硬質な指刃先が音を鳴らす。
木の幹を引っ掻けば、やや引っかかりはあるが、4本の並行して並んだ深い切り傷痕をきれいに刻めた。
「おおすげえ、上手くいった! これは刃手と名付けようかな...」
これでも十分扱いやすくなったが、武装としては心許無い。
なので、新しく習得したものを用いたアイデアを、右手に変体スキルで組み込むことにした。
イメージは銃、に寄せたいが、あまり大きく見た目を変えたく無いので、大砲をイメージする。
イメージすると、前腕が少し太くなり、掌底から前腕に向かって銃口の様な穴がだんだんと開いていった。
人差し指もやや太くなり、銃口が開く。
膨らませた二の腕の中に、爆薬を生成する臓器を移動させてそこから性能をさらに引き上げる。
最後に腕全体の硬度を、動作を阻害しない程度にまで引き上げれば完成だ。
早速試し撃ちを始めてみる。まずは指から、弾丸は硬質化させた身体の一部を使い、親指を照準がわりにして、枝を狙い撃ってみる。
「指砲ッ!!」
カッコつけながら爆薬を起爆し、指の中に生じる衝撃波に乗せて弾丸を放つ。
目で追えないほどの速度で弾丸は飛び、元狙っていた枝には当たらなかったが、奥にあった小枝を撃ち抜き落とした。
「うん、上出来だな。つぎは腕砲を試したいが...爆薬が足りんのよなあ...」
何せ、腕砲は威力は高いが、指砲よりも発射に使う爆薬は数十倍多く、もし今使えたとしても、音が大きく、試し撃ちができるほどのコストをしていない。
「まぁ、一旦お預けにしておくか」
「・・・!」
俺が少し悔しがっているのをさておき、ベリルは森奥へ跳ね進むのを再開する。
「ちょ!?まってー!!」
草木をかき分け、ため池を飛び越え、モンスターから身を隠し、ベリルに続いて俺は茂みから飛び出した。
「はぁ...はぁ...ベリル、何処にいくんだ...!?」
血に伏せた体勢から顔を上げると、少し嫌なオーラを感じる洞窟の入り口があった。
「これって...」
"ダンジョン、ですね"