表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

6話 ハンティング


「あ”ー...いい目覚めだ...」


すっかりと俺の寝床になった狭い洞穴から這い出て、お日様に挨拶と言わんばかりに目を焼かせてもらう。


「・・・」


「ベリルも起きたか、おはよう」


ベリルは俺の服の首を出す穴から顔を出して、外を眺めるように体をはみださせる。


「ははは、コラ、襟が伸びる」


服の首穴に、俺の首と、ベリルの身体がミチミチに詰まって、息がしずらくなる。


「・・・♪」


「ちょっとー?ベリルさーん?」


段々青に染まってゆく俺の顔をよそに、ベリルは特等席を堪能するのだった。





"マスター、少々よろしいでしょうか"


エンサ―が少々かしこまった声色で、脳内に語り掛けてくる


「おん?どうかしたのかい?」


”しばらくの間、私の本来の役目である、地脈の整理に移りたいのですが...よろしいでしょうか?”


「ほーん...いいよ?こっちが手伝ってもらってる側だし、基本的にそっちの用事を優先しな!」


そう言葉を返すと、エンサ―は「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べ、以降は声が聞こえなくなる。



「さて...と、何しますか...」


ダルダルになった襟を携え、俺は今日することを考える。


「遭難したときは、安全な場所で救助を待つべきなんだろうけど...ここは異世界、救助隊なんて来やしねーよね、チクショウめ」


”哀れですね...”


「言うなっ! ってかまだ居たんかい!?」






「んで、今一番の目標は、ダンジョンを見つけることだな。」


現段階で、俺には魔力を使うための器官が無く、体内に生成するにはダンジョンに行って、大量の魔素を吸収しないといけないのだ。


「エンサ―は教えれんて言ってるしなぁ...頑張って探すか!」


「・・・!」


突如、ベリルが俺の服から這い出て、こちらの様子を確認するかのように、振り返りながら森の中へ進む。


「あれっ!?ベリルさーん?」


俺の静止を気にも留めず、どんどんと森の奥へと入っていく。


「ちょっ!まっ、待ってくれーい!」


跳ね進むベリルの背中を追い、俺も森の中へ駆け出すのだった...



十数分後...


「まったく...どこへ行こうというんだ...」


いまだハイスピードで跳ね進むベリルを追っているが、まだまだ止まりそうにない。


草木の間を抜け、小川を飛び越え、結構な距離を進んできたはずだ


「・・・!?」


ふと、ベリルが急停止する。


「...!?おわっぶねぇ!?うわぁぶべっ!」


急に止まったベリルを踏まないように、脚を横にずらしたが、横に滑り地面を転がる。


「・・・!!」


ベリルは転んだ俺をに何度もぶつかり、何かを急かしている。


「もう!なんだよベリル!!」




「フゴッ」


目の前から、豚面の大きな男が歩いてくる


「...!?オークかよ...!!」


どうやらベリルはこいつを探知し、接敵を避けるために静止したと思われるが...


「...フゴ?...ブヒィィィィィッ!!」


あいにく俺の失態で発見されたらしく、腹を揺らしながら、ドスドスと歩いてくる。


「・・・」


「まじですまん...向こうもあの成りで結構速えし...」


オークは俺が急いで立ち上がるまでに間近までに迫ってきている。


今から逃げても、もう間に合わないだろう。


「何より、ベリルの目指してんのはあのオークの向こう、少々脳筋だが...」


俺は腰を落とし、左腕を”変体”で出来うる限り固くする。


「朝飯がてらに、さっさとノして食って突っ切んぞ!」


「・・・!!」


ベリルは俺の声に呼応し、構えるかのようにその身を縮めた。


オークが踏み込み、俺に向かって棍棒を振り下ろす




「また当たってたまるかよ!!」


俺は懐に潜り込み、左腕の先端でわき腹を刺す


「プギャァァァッ!?」


「...ッチ!硬ぇ!!」


脂肪と筋肉の層で、刃が受け止められ、臓器まで腕が達しない


痛みに悶えるように、オークは体をふるい、俺を引きはがそうとする


「ッシ!」


息を吐きつつ、腕で肉を裂くように腕を引き抜いた


オークの傷口から、鮮血が舞う


「・・・!!」


ベリルが、火球(ファイアボール)をオークの大きく開けた口に向かって放つ


「ブヒィィ...ィ...!!」


声が掠れてゆく、どうやら今の一発で喉が焼けたのだろう


「ヒエェ...」


「・・・!」


ベリルが褒めて欲しそうにこちらを見るが、恐怖が声に出そうなので、サムズアップを送ることしかできない。



「...ゥィアアッ!!」


オークが、かすれた声で叫びながら、先ほどよりも速く何度も棍棒をこちらに向かって叩きつけてくる。


激しく動いたことで、脇腹からの出血が多くなるが、お構いなしのようだ。


振り下ろし、横なぎを意地を出したかのように何度も繰り返している。



「さすがに暴れすぎだろ...!!」


向こうの猛攻がすごすぎて俺は回避に徹することしかできない


「・・・!!」


ベリルが火球(ファイアボール)を何度も命中させるが、決定打にはならずに、MPが切れたのか撃ち止めとなってしまったようだ。


横やりが無くなったからか、ベリルの方を全く気にせず、さらに向こうの攻撃の勢いが増していく。


「..ゥグォォォ!!」


横なぎの構えをとったと共に、オークのわき腹から強く血が噴き出て、俺の顔にかかる。


「...!?まずい!」


避けようと身を伏せるが、向こうは対策をしていたらしく、地面をえぐりながら放たれた一撃は、俺の身体に直撃した。



メキメキメキ...


骨が折れていく音が聞こえる


「あがぁ!?」


喉の奥から熱いものが込み上がって来るのがわかる。


宙を待った俺の身体は、近くにあった木の幹に強く打ち付けられる。


(今ので背骨イッたな...)


痛みが脳を刺激していたお陰で、何とか気を保てている状態だった。


顔に付着した血を拭い、視界を確保すると、オークは追撃をしようと棍棒を振り上げていた


「...ック!」


俺は咄嗟に左腕を右腕で抑えて盾にする



ズドンッ!


「ゔぉぉ...!」


何とか棍棒を止めれたはいいが、左腕には罅が入り、欠片が頭にパラパラと降り、支えていた右腕までも痺れてまともに動かない。


オークは、また打ち付けようと棍棒を持ち上げる


二度目を当てられたら、もう受け止めれる自信はない


逃げようとしても、背骨が折れたことで神経がイカレたのだろうか、脚に力が入らない


(クソッ!早く治ってくれ!!)


”変体”を使い、昼に食べた魚の骨と、折れた右腕の骨を背骨に回し、全力で補修を進める


段々と足に感覚が通ってくるが、まだ立てそうにない


オークの方は、棍棒を掲げ、今にも棍棒を振り下ろしそうだ。


(早く!早く!!)



棍棒がわずかに傾く




「・・・!!」


火球(ファイアボール)が、俺を見据えていたオークの顔面に直撃する。


「ブヒィィァ...ァ!!!」


オークが棍棒を放り、顔に手をやって必死に擦る


先ほどの顔の下半分に当たった火球とは違い、上半分に当たった火球は目と鼻を焦がしているだろう。


恐ろしくも、助けてもらったことにただ感謝する。



お陰で背中の修復が間に合った。


急加速(クイックアクセル)!!」


感覚の戻った両足で、思いきり地面を蹴る


(左手をもっと硬く!鋭く!!)


願えば、左腕の罅が埋まり、前腕の形状が肉切り包丁の刃のようになる。


黒く光沢を放つ刃を、オークの胸のど真ん中に刺し、勢いで押し込む。


オークの体が震え、手が俺に伸びてくるがもう遅い


胸に突き刺した刃を、下に引き下ろす。


変体(メタモル)・スラッシュ!!」


刃はオークの身体を胸から腹にかけて滑るように裂き下ろされた。



「どうよ、俺の必殺技...なんつって」


「オォ...ア...ァ...」


オークは鳩尾を抑えながらよろめいて、背中から地面に倒れこむ。


それを見届けた俺も静かに倒れ、息を整える


「やっぱり....強え、けど...リベンジは...達成だ...!!」


俺は拳を天に掲げる。


が、掲げた左腕が刃物だったことを忘れていた俺は、戦闘後に残った奇妙な高揚で爆笑してしまう。


笑い声は、森に響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ