2話 突然の天の声
朝が来た
小鳥が囀る声で起こされる
頭痛はとうに引いており、ホッと息を吐く
「流石にずっとあの痛みと戦い続けていたら気が狂うからな...良かった」
洞穴から出るための体勢に変えていると、右手の痛みが妙に引いていることに気づく
「んん?まだ腫れてはいるけど…だいぶマシだな…まあいいか!」
「あ"〜やっぱり狭いなぁあそこ」
洞穴から出て腰をパキパキと鳴らす
日差しを体いっぱいに浴びて、身体を起こしていると
モゾモゾ
俺の腹の上を何かが這い降りている
「ヘェッ!?」
驚き、恐怖で動きを止めていると
「・・・」
黄緑色の丸みを帯びたゼリーっぽい何か、いわゆるスライムが俺のシャツから出て地上に降り立つ
スライムはただゆっくりそこらを這って、雑草を体?に取り込んでいるようだった
「…?」
そんな様を困惑しながら観察していると、少し冷たい風が吹く
「・・・!?」
スライムは寒さに応えたのか大きく身震いし、俺の方へ跳ねて来た
そのまま俺の体を這い登り、服の中へ帰ろうと
「いや、させんが」
スライムの頭頂部?らしき所を鷲掴みにする
「・・・」
「...」
自重で少し縦に引き伸ばされたスライムを睨む
が、スライムは変わらず沈黙している
近くでよく見ると、半透明の体の中央、不自然にやや色が濃い部分がある
「心臓的なものか?…わっかんねぇや!」
取り敢えず、スライムを軽くそこらに放る
放ったスライムはバウンドしながら茂みに突っ込んでいった
「そういえば昨日…なんだっけな、なんかがおれに…」
昨日の記憶を遡る、川、刃角兎、でかい月、爆鱗蝶、頭痛が痛い…
「そうじゃん!確か技能がどうのこうのって言われてたわ!」
ようやっと思い出した俺は、ステータスを確認してみる
____________
名前:... Lv.3
HP:16/16 MP:4/4
状態:-- 種族:人?
____〔技能〕___
「変体」、「適応」、「解析」、[+]
____『称号』____
「不運」
____________
「お!技能が増えてる…って何だよこの称号」
称号の欄に増えていた「不運」に目をやる
「まあ、昨日は散々だったからな…もう不運がないといいが...っておいステータス、種族に疑問を持つな、俺は人間だぞ」
上から下へ見ていると、技能欄にある[+]が気になり、[+]へ指を伸ばす
[+]に指が貫通すると画面が切り替わる
____________
[習得可能初期技能]:2
「剣術」、「急加速」、「生活魔法」、「探知」、「格闘術」
____________
「習得可能初期技能...長いな」
技能を見ていくと、技能]:2のところから、多分二つしか技能を選べないんだろうとわかった
「ケチだなぁ...」
ムッとしながらも、自分なりに必要な技能を考えてみる
「戦闘系の技能は魅力的だけど、剣術はそもそも剣が無いし、格闘術は敵に接近しないといけないし、生活魔法は...まぁ、欲しいし、なら急加速と探知のどちらにするかだなぁ……」
接敵を避けるか、移動を選ぶか
どちらも魅力的で長考に至る
「よし!決めた!」
技能を選択すると、元の画面に戻る
____________
名前:... Lv.3
HP:16/16 MP:4/4
状態:-- 種族:人?
____〔技能〕___
「変体」、「適応」、「解析」、
「急加速」、「生活魔法」、[+]
____『称号』____
「不運」
____________
「やっぱ速度、速度が良いよなぁ」
選択した技能を早速使ってみる
「まずは急加速」
ムムムっと念じて使用してみると、特に何も変わらなく感じるが、足を踏み出そうとしてみると
ドゴッ「あだっ!」
かなり前にあったはずの木に衝突してしまっていた
「いっててて…何だ よっ!?」
木からのけ反ると、急に膝から崩れ落ちてしまう
身体も火照って汗をかいており、息切れもしてかなり辛い
まるで30分ぐらい走っていたような疲労だ
そう自分を分析したところで、これが急加速スキルを使用したことによる代償ということに気づいた
「なんだよ...ゼェ…ゼェ…一回でこんなに疲れるなら...逃げには使えねぇじゃねぇか...ハァ...」
青空を見上げながら息を整えていると、先ほどのスライムが俺の体の上に這い上る
「んだよ...テメェは...」
冷えたスライムの体が、俺の発した熱を吸い込み、疲労回復が早くなった様に感じる
引き剥がすにもだるく、そのまま俺は只々疲労が治るのを待った
「...何がしたいんだコイツ」
俺のスタミナが回復するまで経ったが、スライムは今だに俺の体の上を降りようとしない
立ち上がってみても、歩いてみても、揺らしても、跳ねても降りようとしない
「まぁ...害は無いか」
今の所コイツはただのひっつき虫だ、ヤバそうだったら服ごと投げ捨てれば良いと思い、喉が渇いたので腹にスライムをぶら下げながら昨日行った川に向かう
(歩きずらいな...)
「ふう…着いたか」
茂みを抜け、川岸に辿り着く
「・・・!!」
川に近づくとスライムが反応し、俺の体から離れて水に飛び込んだ
バシャン!
「俺も入るか...っと!」
靴を脱ぎ、靴下を脱いで川に足を浸す、冷たい感覚が足に伝わる中、片手で水を掬い飲んで喉を潤す
水を十分に飲み終え、岸に上がり、適当な岩に腰掛ける
「忘れていたけど、技能の検証の続きだ」
ステータス欄を開く
____________
名前:... Lv.3
HP:16/16 MP:4/4
状態:-- 種族:人?
____〔技能〕___
「変体」、「適応」、「解析」、
「急加速」、「生活魔法」、[+]
____『称号』____
「不運」
____________
「あれ?技能がまた選択できるぞ?」
早速[+]に触れ、画面を切り替える
____________
[習得可能追加技能]
「咆哮」
____________
「咆哮?...叫んで何になるんだか…って技能を獲得するのにいちいちこの画面開かないといけないの面倒だな…」
いちいちステータス画面を開いてから、取得用の画面を選ぶだと少々面倒だと感じれる
「選ばないといけないやつ以外は自動で取れたらいいんだけどなぁ〜」
”了解、直ちに修正します”
「ウェッ!? っととととオワー!?」ドサッ!
突如聞こえた声に俺は驚き、岩から転げ落ちる。
(というかこの声!俺を頭痛で苦しめやがったあの声じゃねえか!!)
体勢を立て直して、辺りを見渡す
(どこだ?どこにいる…?)
”返答、私はどこにもいません”
「はぁ!?」
思考を読まれたことと、よくわかんない返答をされたことで思わずそう口に出してしまう。
「あんたは誰だ!そしてここは何処だ! 何で俺はこんな場所にいる!!」
怒り、恐怖、混乱全てが混ざり、声を荒げ威圧する。
”了承しました ですが、説明する前に一つだけ”
少し溜められた返答に、俺は静かに息を呑む
「…」
”先日貴方を手違いにより、脳機能を低下させかけたことについて、謝罪申し上げます”
今からバチバチに言葉で殴り合う気だった俺は出鼻をくじかれる。
「…それで何だ?」
威圧感を編みなおしつつ、理由を促す。
”なぜ、あのようなことになったかと言いますと、最初はただ少しずつ貴方に記憶を返却するためでした。”
「なぜ少しずつ?」
”それは、一度にすべての記憶、経験を戻してしまうと、脳機能が完全に破壊されて、廃人になってしまうからです”
怖いと思いつつも、体裁を崩さずできうる限り怖い声を出す
「それが、先日の頭痛の関連があるのかい?」
”合ってます、貴方に起きた頭痛の前に、私は記憶を返却する準備をしていたのですが、貴方はその時天に向かって吠えましたね?”
「…ああ、そうだ」
”貴方の天に向かってという行為が、私との通信の条件を満たしたわけです。
それにより、私は貴方の咆哮をもろに食らったというわけです”
「…ほう?」
"そのせいで私は深刻なダメージを受け、あなたの記憶の大半を溢してしまい、通信をしていた事でその大量の記憶があなたに送られてしまいました"
「...」
"あなたが寝てる間に私が溢れた記憶を重要なもの以外切り落とす事で、一命を取り止めることができたのです"
"記憶の整理の後に睡眠をとり、川に到着した時に私は目覚め、私が補助出来そうなものがあったため、声かけしました"
(あれ?これ俺が悪くね?)
「あのー...ごめん、色々してくれたのにひどい態度で」
"構いません、寧ろ初めて人と話せたので気分は高揚しています"
抑揚のない声で淡々と話しているのでわからんな、と思いながら頬を掻いていると声は続けて話す。
"話を戻させてらいますが...あなたは私のサポートを求めてますか?"
「えぇ? できるなら欲しいけど...」
"ならば、要求があります、あなたの最初の質問に答えるのにもこの行為は必須です"
「そ、その要求は...?」
"それは..."
"私に名前を付けてください"
「え? ああ、そう」
(代償に何かを奪われないといけないとかじゃないんだ…それくらいだったらまぁ)
早速考えてみる。 下手な名前をつけて機嫌を損ねたら大変だし、何せ自分のプライドが傷つく。
「うーん…そうだなぁ… なんか特徴とかないの? 自分のさぁ〜…」
無情報で考えるのは難しいので、関連するものを作るために聞いてみる。
"特徴と言いますと?"
「見た目とかさぁ、好きなものとか、自己PRでも何でもいいからお題をくれると助かるよ」
"そうですね..."
数秒沈黙した後に返答が来る
"特に無いです"
「えー!? 結局俺独自に考えることになるのかよ!!」
そうして俺は、長い間思考を巡らせるのだった...