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8、発作

「あなた。あのロンという子と面識があるの? 私は初めて見たわ。下級使用人じゃないの?」

 馬に乗りながら、アクネがサーに尋ねる。

「階級的には一番下っ端さ。でも、あの子が例の空を飛ぶ少女だ」

「え? じゃあお父様の話し相手っていう……」

「そうだよ。不思議な子だ……お父様の心ばかりか、使用人の雰囲気も良くしてくれていると聞いた」

「男性ばかりではありませんの? そうでしたら魔性ですわ」

「そうでもないと思うよ」

「……すいぶん、あなたも執着していませんか?」

「そんなことはない。時々偶然会うくらいだからね。変な心配はしなくていい。それより、湖のほうへ行ってみないか?」

「ええ、いいわ」

 二人は馬を走らせた。


 その夜。夕食の時間、ロンは隣の部屋のエミーと隣席になった。

「ロン、久しぶりね」

「本当よ、エミー。初日以来、全然話す機会がなかったんだもの」

「職場が違うものね。休憩の時間帯も違うし。でもどう? だいぶ慣れた? みんなあなたの噂をしているわよ」

「本当? ドジだって?」

 照れるロンに、エミーが吹き出すように笑う。

「うふふ。大丈夫よ。みんな良い子だって思ってるわ」

「それならいいけれど……でも、だいぶ慣れたみたい。毎日とっても楽しいわ。いろんな人と話が出来て」

「それはよかったわね。前王様はどう? お元気?」

「うん、とっても」

「よかったわ」

「そうだわ。さっき、初めてお妃様を見たの。とっても綺麗な方ね」

 アクネの姿を思い出し、うっとりした目つきでロンが言った。あんなに気品溢れる女性は見たことがない。

「そうよ。本当、お似合いのご夫婦だって、結婚当初から言われているの」

「うん。あんなに綺麗な人、見たことないわ。思わず見とれちゃった」

「嫌だわ、ロンったら」

「だって」

「そういえば、ロン。あなたのお休みはいつなの?」

 突然、エミーが話題を変えて言った。

「お休み?」

「申請したらもらえるのよ。もちろんあなたには、あなたにしか出来ない前王様のお話し相手っていう仕事があるから、滅多には休めないかもしれないけれど、他の仕事は休めるわ」

「考えたことなかった。でも都会に出てきてから、外にも出てないからな……でも一人で出るのも不安かも……」

「じゃあ、今度の週末にお休みが取れたら、一緒に街へ行きましょうよ。私は今度の週末、お休みなの」

「本当? じゃあ頼んでみるわ。誰に言えばいいの?」

「使用人の窓口で申請すればいいのよ」

「わかったわ。あとで行ってみる」


 週末。休みが取れたロンは、エミーと二人で初めて城の外へと出ていった。

「わあ。すごい賑わってる! 飛んできたから全然見れなかったの。それにホウキが暴走してて、見てる暇もなかったし……」

 目を輝かせて、ロンが街を見回しながら言った。

 エミーはロンの横で、あまりに嬉しそうなロンに笑っている。

「じゃあ、今日はゆっくり見ましょう。どこか行きたいところとかある?」

「よくわからないわ。お金もないし……」

「じゃあ、ぶらぶらしましょう。あ、アイスクリーム食べる?」

「うん!」

 二人は、久しぶりの休みを満喫していた。


 夕方。部屋に戻ってきたロンは、雑貨屋で買ったお守りをホウキの柄につけた。

「これで雷に打たれたとしても暴走しないわね、ホウキさん」

 ロンはそう言うと、歩き疲れた体を休める。

 たくさんの仲間も出来、ロンの生活は本当に毎日充実していた。



 数日後。ロンは再び飛行術が見たいという前王の要望に、塔の庭で自由自在に飛び回っていた。

「ロン。もういいぞ」

 その声に、ロンは芝生に寝転んだ。

「ハアー」

「疲れただろう。ギイル、ロンに水を」

「はい」

 前王の命令に、ギイルはロンに水を差し出す。

「ありがとう……」

 ロンは起き上がって水を飲み干した。

「ハハハハ。良い飲みっぷりだ。飛ぶと疲れるかね?」

「いえ、大丈夫です。今日は久々だったから、調子に乗って激しく飛んじゃったから……でも暑い……」

「寝転んでいいぞ」

「すみません」

 ロンは遠慮なく芝生に寝転ぶ。

 その時、前王が驚いてロンに近付いた。

「ぜ、前王様?」

「それは! それはどうしたんだ?」

 前王が指差したのは、ロンの首元から出たペンダントだった。それは、古ぼけた銀の装飾である。

「これですか……?」

 ロンがペンダントを見せて言った。そのペンダントは、物心ついた頃から肌身離さずつけているものだ。

「ああ。それはどうしたのだ?」

「これは父の形見です。小さい頃からお守り代わりにつけていたもので……」

「おまえの父親が……?」

「これが何か?」

 その時、急に前王がうずくまった。

「前王様? 前王様!」

 ロンが前王に呼びかけた。すかさず、ギイルが駆けつける。

「どうした! また何かを言ったのか?」

「ううん。でも、私のペンダントを見て……」

「ペンダント? ああ、いけない。それよりも前王様を中へ入れなければ。ロン、メイドに言って応援を。それから、王様に知らせるんだ。大魔女様にも」

「わかったわ!」

 ロンはホウキに乗ると、塔の最上階へと入り込み、メイドに慌てて言った。

「あの、前王様が倒れたの! 運ぶのを手伝ってください。あと、王様と大魔女様に知らせて!」

「なんてこと! 運ぶのが先だわ。あなたは通信機で、王様の窓口へ連絡して!」

 そう言いながら、メイドたちは下へと降りていった。

「ど、どうやってやるの?」

 誰もいなくなった塔で、ロンは通信機の受話器を取りながら慌てていた。

「落ち着かなくちゃわかんない。ああもう! 直接行ったほうが早いわ!」

 ロンはホウキに乗ると、城の中を叫びながら飛んでいった。

「王様! 王様はどこ……王様!」

 城の中心まで行くと人が多く、ロンを止めた。

「城内を飛び回るとは何ごとだ!」

 呼び止めたのは、初日に出会ったゼムン将軍である。

「将軍様! 王様は、王様はどこにいるの?」

「落ちつけ。何があったというのだ?」

「前王様が……お願い! 王様の居場所を教えて!」

「なにごとだ、騒々しい!」

 そこに、サーがやってきた。

「王様!」

「ロン……なぜここに? ここは一般の使用人の出入は禁じられている」

 騒動の発端がロンと知り、怪訝な顔でサーはロンを見つめている。

 だが、ロンは余裕もなくサーの袖口を掴んだ。

「それより、前王様が発作を……!」

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