表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

5、小さなお茶会

 一同は塔へ入ると、リビングでお茶を飲みながらくつろいだ。

 前王は噂ほど怖くはないと、ロンは感じ取っていた。それよりも、国王と国王の父と三人で、自分がお茶を飲んでいることが信じられない。

「父上ももうお若くないのですから、わきまえてください。いくら飛行術を持つ者が珍しくても」

 念を押すように、前王に向かってサーが言う。

「わかっている。もう無茶は言わない。それより、ロン。城はどうだね?」

 前王がロンに尋ねた。

「まだよくわからないけど、素敵です。私もお部屋をいただけたし、使用人棟も広くて素敵です。お庭も広いし、ご飯たくさん食べれるし」

 ロンが答える。

「そうか。よかったな」

「それに、前王様や王様が怖い人でなくてよかった……」

「怖い人?」

「だって、きっと怖い人だと思っていたんです。でも、全然怖くなかったわ」

「ロン。口の利き方をわきまえなさい」

 たまらず、ギイルが口を挟んだ。

「あ、ごめんなさい。つい……」

「良い。おまえのような者は新鮮だ。ここでは良いこととする。私の話し相手だ。敬語では話しにくかろうしな。それで? 王家の者が怖いと思ったのに、仕えようとしたのかね?」

 前王が言った。ロンは注意されたことで恐縮しながらも、まっすぐに前王を見つめる。

「それはその……やっぱり城で働けるとなると、お給料もいっぱいもらえるって聞いて……」

「ロン!」

 ギイルが言った。

「アッハッハッハ。そうか、おまえは正直者だな。ギイル、そう怒らないでやれ。私はこの子が気に入ったぞ」

「父上……」

 サーは久々に笑う父親の姿を見て、驚きと戸惑いを覚えていた。

 今までの前王は、毎日を静かに過ごし、余程楽しいことがあっても笑うところなど見たこともない。

 そんな前王が笑っているというのは、信じ難いことである。

「サー。私はこういう子を待っていたのかもしれん。私の顔色を伺う家臣どもには、いい加減うんざりしていたところだ」

「父上が良ければいいですが……」

「良い。ロンよ、私はおまえが気に入ったぞ」

「あ、ありがとうございます」

 しばらく話して、ロンはサーとともに塔を出ていった。


「……すみません」

 何も言わずに歩いていくサーの後ろで、沈黙に耐えられずにロンが口を開いた。

「何がだ?」

 無表情で、サーが尋ねる。

「あの……私、本当に口の利き方とか考えなくて、その……」

「良い。父上が良いと言ったのだ。だが、他では気をつけなさい」

「は、はい」

「しかし、ロン……礼を言うよ」

「え?」

 振り返ってそう言ったサーの言葉に、ロンはサーを見上げた。

「父上はあの通り、塔に閉じこもって、家臣や……私でさえも、あまり信じなくなったような気がする。しかし、久しぶりに父の笑顔を見た。父にはずっと、おまえのような子が必要だったのかもしれない。建て前もなく、本音で話してくれる子が……」

「王様……」

「ご苦労だった。これからも父を頼むぞ」

「は、はい」

 サーは立ち止まり、真後ろを振り返った。そこにはギイルがいる。

「ギイル。この子を使用人棟まで送り届けてくれ。父の意向だ。あまり咎めないでくれ」

「かしこまりました。陛下」

「では、私は行く」

 サーはそのまま、去っていった。

「あの……」

 ロンが、ギイルを見上げて言った。

「陛下や前王様はああ言ったが、君には少し教育が必要だと思う」

 ギイルがそう言ったので、ロンは緊張して頷く。

「は、はい」

「この本を貸してあげるよ」

「本?」

「お城で働く極意が書かれている。口の利き方から作法まである」

 ぶっきらぼうに、ギイルが本を差し出した。

 ロンはそれを手にするが、気まずそうにギイルを見上げる。

「ありがとうございます。でも私、読み書きを知らなくて……」

 小さくなって、ロンがそう言った。

 学校もなく、家業の牧場で自然のままに生きていたロンにとって、字というものを理解したことはない。

「ああ、そうか。牧場の出だったね……」

「すみません……でもあの、教えてほしいんです。お願いします!」

 決意に満ちた様子で、ロンが言った。

 その熱意に、ギイルもやっと笑顔を見せる。

「よし、じゃあ教えよう。前王様が君にお会いになられる時間は、君の昼休憩の後だ。だから休憩中、一日五分でもいいから、僕のところへ来なさい。城で働く最低限のことを教えてあげるよ」

「ありがとうございます、ギイル様」

 その言葉に、ギイルは苦笑する。

「僕のことはギイルでいいよ。僕は君の上司ではなく、君と同じ使用人だ。ただ、少し見かねただけだよ。僕は休憩中、前王様の塔へ向かう途中の、城内使用人棟側の庭にいるから」

「わかりました。必ず行くわ」

「ああ、待っているよ。さて、この廊下をまっすぐ進むと、君のいる棟に着く。ちなみに僕がいる棟はそっちだ」

「同じ使用人なのに、たくさん棟があるの?」

「そうだよ。城内の使用人と、雑用の使用人は違うからね。じゃあ、迷うんじゃないよ」

 そう言って去っていくギイルを見つめながら、ロンは微笑んだ。

「よかった。ギイルも優しいんだ。怖い人ばかりじゃないんだ……よし、頑張るぞ!」

 ロンは使用人棟に戻ると、また別の仕事をこなした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ