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4、前王の話し相手

「ロン。前王様とお話しする前に、いくつか注意事項を言っておく」

 ギイルが、早足に歩きながら言った。

 ロンはついていくのに精一杯だったものの、懸命に聞き入る。

「まず前王様のことは、前王様か旦那様と呼ぶこと。そして、前王様自身のことに触れてはならない。おまえから何かを尋ねるということは、あってはならないことだ。しかし、前王様が何かを聞かれたら、正直に答えること」

「はい」

「それから、前王様に危険な真似はさせてはならない。口調や態度も気をつけること。おまえは話し相手だから、何かあればそばに必ずメイドかボーイがいるので、それらに伝えること。あとは、とにかく粗相のないようにすることだ。前王様は気難しい方だ。頑張ってほしい」

「はい、わかりました。一生懸命頑張ります!」

 ロンは明るくそう答えた。

 生活のためにも、ロンはここでうまくやっていくほかないのだ。


 塔へ着くと、塔の門番によって開けられた厳重な入口を通って、ロンは塔の中へと入っていく。

 すると、前王は動き易い格好をして、ロンを待っていた。

「ぜ、前王様。ロンでございます」

 慣れない口調で、緊張しながらロンが言った。

「おお、待っていたぞ。早速外へ出るか」

 前王は少し足が悪いようで、杖をつきながらギイルに肩を借り、ロンを招いて部屋のレトロな造りのエレベーターに乗ると、下へ降りて塔の庭へと出ていった。

「さて、まずはおまえの腕を見させてもらおうか。もう一度飛んでくれるか」

 突然、前王がそう言った。

「あ、はい。あの……でも私、まだホウキを返してもらっていなくて……」

「ホウキか……検査に回しているのだな。おい、ギイル。この娘のホウキの様子を見て来てくれ。問題がないようなら、すぐに持って来るように。そろそろ検査も終わっているだろう」

「かしこまりました。すぐに……」

 ギイルはそう言うと、すぐに塔へと入っていった。

 ロンは前王を見つめ、自分の腕をつねった。

「どうした。何をしている?」

「あ、いいえ。ごめんなさい。ただ私、ここにいるのが信じられなくて……まだ夢じゃないかと思って……」

 ロンが正直にそう言った。

「アッハッハ。それで自分の腕をつねったのか。おかしな子だ」

「す、すみません……」

「なに、おまえはそれで良い。正直なところ、形式ばったつまらない生活にうんざりしていたところだ。おまえのような子も、私にとっては珍しい」

 前王は噂に聞くよりも気さくな感じに見えたので、ロンは少し安堵の笑みを浮かべた。

「でも、粗相のないように気をつけます」

「そうだな……」

 そこに、ギイルがホウキを持ってやってきた。

「前王様。持ってまいりました」

「問題はなかったのだな?」

「はい。普通のホウキということです」

 ロンは大切そうにホウキを受け取ると、前王を見つめる。

「では少し飛んでみてくれるか? ただし、塔の上までは出るな。バリアが張ってあるから出られまいがな。衝撃で落ちてもいけない」

「はい」

 ロンは早速ホウキに乗ると、ふわふわと浮かんでいった。そして上空で颯爽と飛び始めたのである。

 それを見て、前王は目を輝かせた。

「良いぞ、ロン。まさしく飛行術だ。素晴らしい」

 前王の声を聞き、ロンは前王の前に戻っていった。

「ありがとうございます」

「しかし不思議だな。この城には強力なバリアがあるのに、なぜおまえが入ってこられたというのか……それにおまえはただの牧場の娘と聞いたが、どこでそのような術を覚えたのだ?」

 前王が尋ねる。

「バリアのことはわかりませんが、飛行術を持つものは珍しいから人の目にはあまり触れないほうがいいと思って、雲の上を飛んで来ました。でも途中、雨雲の中で雷に打たれ、ホウキが暴走してしまって……目的地がお城だということに、このホウキが忠実にこなしたみたいです」

 正直に、ロンがそう答えた。

「なるほど。魔術をかけたものはその者に忠実だからな。だがこうしてホウキが穏やかになったのは、元に戻ったのだな」

「そうだと思います」

「では、なぜ飛行術を覚えたのだ?」

「それが、よく覚えてないんです。物心ついた時から飛べました。でも、うちは魔女の家系ではない、ごく普通の家庭でした。近くに魔女のおばあさんは住んでいたので、そこではしょっちゅう遊んでいたのですが、そこで小さい頃に見た昔の魔女の姿という絵を見て、ホウキに乗って遊ぶのを覚えたと聞きました」

「なるほど。子供は感受性が高いからな。それに、おまえのような子も稀に生まれるのは確かだ」

「私にとって飛ぶことは、交通手段でもありますが、遊びです。それに魔女ではありませんから、飛ぶこと以外は何も出来なくて……」

「なるほど。では、ロン。おまえ、私を乗せて飛べるか?」

 前王がそう言った。さすがにロンも驚きに目を丸くする。

「え?」

「私も飛んでみたいのだ」

「ぜ、前王様。危険でございます。まだこの者は未熟な子供です。もしものことがあったら……」

 ギイルが口を挟んだ。

「おまえは黙っておれ。私は王家の人間、そう簡単には死なぬしな。さあ、どうだ? ロン」

「……うまくやれるかはわかりません。人を乗せて飛んだことはないので……でも、前王様がそうおっしゃるのなら、やってみます」

「よし。後ろに乗ればいいのか?」

「はい」

 前王は、ロンの後ろでホウキにまたがった。そのままロンは、いつもよりも集中する。

 しばらくすると、ほんの数センチばかりだが浮かび上がる。しかし、すぐに地についてしまった。

「父上!」

 そこに、現国王であるサーがやってきた。

「サーか。こんな時間に珍しいな」

「その者は新しい者なので、気になって来ました。それより何をなさっているのですか。危険な真似を……」

「大丈夫だ。それより見たか? 少しだが浮いたぞ。我々、万能の王家の人間とて、飛行術だけは持たぬからな」

「この者を話し相手に選んだのは、こういうことですか? 好奇心だけでは、この子も可哀想です」

 少し厳しい顔をして、サーが言う。

「何を言うか。べつに下女で雇ったわけでもないのだ。城で働けるこの子には、名誉なことであろう」

「それはそうかもしれませんが……」

「あの。ごめんなさい……これ以上は、どうしても出来なくて……」

 たった数センチしか浮かばなかっただけだが、ロンは大汗をかいて言った。

「いや、良い。私も無理を言い過ぎた。それより大丈夫か? 凄い汗だ」

「すみません。こんなにすぐに疲れるなんて……」

「まだおまえは子供だ。それに大の魔女でも、飛ぶとなれば大変なエネルギーがいると聞いた。更に大人一人を乗せることなど、不可能に近いのかもしれない。気にするな」

「すみません……」

「ギイル。茶にしよう。ロンも上で休みなさい」

「ありがとうございます。前王様」

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