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3、新しい生活

 サーは自室へ戻ると外を見つめた。すると隣の部屋から、アクネがやって来る。

「あなた。お父様はどうでしたの?」

「ああ、変わりなかったよ。それから、騒ぎの少女が目を覚ました。それでまた、父上の気まぐれで会わせたのだが、話し相手にしてくれと言われてね……これからここで働くことになるかもしれない」

「その少女がですか? お父様の話し相手なんて、今度はいつまで続くのかしら……」

「そうだね。父は頑固で飽きっぽいから……今まで話し相手に雇った人間はたくさんいたが、どれも長続きしなかったからね。今回はまだ十五歳の少女だし、そう長続きするとは思えないが……一瞬でも父上の退屈が凌げるのならば、少女でも頼まねばならないからね」

「そうですわね……でも、この神聖なお城に、そうわけのわからない一般人が入りこむのは嫌です」

「まあそう言うな。それに彼らは一番下で働く事になるのだから、そう目にすることはないだろう」

「それはそうですけど……」

 サーは静かに笑みを浮かべ、椅子に座る。それに続いてアクネも座った。

「まあでも、あの少女は適性テストに受かるだろうよ」

「あら、どうしてですの?」

「空を飛べるほどの魔力を持った人間は、今時珍しい……だから気は抜けないのだが、彼女には悪意をまったく感じなかった。もしもあの子が黒の者ならば、黒の者もさぞ力がついているという事になるだろう」

 そう言って笑うサーに、アクネもつられて微笑む。

「あなたがそう言うのなら、大丈夫だと思いますわ」

「ああ。それに、君の目に触れる事はそうないだろうから、心配するな」

「ええ」

「さあ、それよりも食事にしよう。少し遅れてしまった」

「ええ。用意は整っているようですわ」

「ああ」

 二人は食事へと向かった。


 その夜。ロンは長い適性テストからやっと開放されると、一人のメイドに声をかけられた。

「私はメイド長のファレンよ。あなたはテストに合格したわ。これからあなたには、主に従業員用台所の仕事をしてもらうことになります。台所の掃除、暖炉の灰集めなどをやってもらうけれど、一日に一度はあなたの仕事である、前王様の話し相手をしに行ってもらうわ。その時は、前王様専属の使用人があなたを呼びに来ます」

 メイド長がそう言った。

「わかりました。ああ、夢みたい! お城で働けるなんて!」

 ロンが嬉しそうにそう言う。

「よかったわね。これから頑張ってちょうだい」

「はい!」

「じゃあ、今日はゆっくり休みなさい。部屋に案内するわ」

 そう言いながら、メイド長は従業員用の建物にロンを連れて行き、一室へと案内した。

「ここがあなたの部屋よ。好きに使いなさい。トイレや風呂場は共同で、廊下の奥にあります。わからないことは、私か近くのメイドに聞きなさい。ここは独身者のメイド専用の建物だから、安心出来るわ」

「はい」

「あなたは朝五時半起床、夜十一時就寝よ。城内はバリアが張ってあるし、そううろちょろと動き回ることは出来ないけれど、あなたは空を飛べるっていうし、勝手に城内をうろつくことだけはやめて。そうなれば罰を与えられ、すぐに追い出される覚悟をしてね。あと、外へ出るのにも許可がいります。一つはこの寮か城内の使用人用窓口で了承を得て、門番から承認を得なければならないわ」

「なんだか難しそう……」

「すぐに慣れるわよ。とにかく、わからなかったら誰かに聞きなさい。今日はゆっくり休んで、明日からは頼むわね。あなた、本当に運がいいわ。こんなにすぐに採用されるんだもの。頑張ってね」

「はい!」

「お腹が空いているでしょう? 今日はこれを食べて。明日の朝は、誰かに迎えに来させますから安心して」

 そう言いながら、メイド長は持っていたパンと牛乳瓶を渡した。

「ありがとうございます」

 ロンは素直に礼を言った。

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 メイド長は部屋を出て行った。

 一人になったロンは部屋を見渡した。小さいながらも自分の部屋があるということに、感動を覚える。

「お母さんが死んでから辛かったけど、私、ここでやっていけそう……お母さんが生きてたら、誇らしく思ってくれるかしら。頑張らなくちゃ」

 ロンは空に向かって、そう誓った。



 次の日の朝。ロンは早くに起き、支度を済ませている時に、一人の女性が訪ねてきた。

「おはよう。あなたがロンね? 私は隣の部屋のエミー・ゴロラ。メイド長に頼まれて、今日はあなたに仕事を教えるわ。部屋も隣だし、これからよろしくね」

「ええ。よろしく、エミー」

 そう言って、ロンもお辞儀をする。

「早起きなのね。よかったわ」

「ええ。うちは牧場だったし、早起きには慣れているの」

「じゃあ、まずは台所仕事を教えるわ。一番下っ端だから、いろいろ大変だとは思うけど、頑張ってね」

「ええ、大丈夫。ありがとう」

「あなた、十五歳ですって? 私は十九よ。年も近いし、私たち気が合いそうね」

 そう言ったエミーの顔は優しく、年上だけあって少し大人びている。

 エミーの優しい雰囲気に、ロンも安心していた。

「ええ、よろしくね」

「よろしく。七時半までは朝の仕事よ。掃除だけでかなり時間がかかるの。最初のうちは、使用人用の生活区の掃除や仕事が主よ。でも慣れてくればお城のお掃除も出来るわ」

「じゃあ、王様に会うことは、その時までないのかしら……」

「王様だなんて無理よ! 身分が違いすぎるわ。お目にかかるだけでもすごいことなのよ」

 突然、エミーが叫ぶように言った。ロンは理解して頷く。

「そっか……残念。いろいろお話したかったのに」

「馬鹿ね。そんなの無理よ」

「そうね……王様だものね」

「そうよ。さあ、早く済ませちゃいましょう。私もあなたと同じ仕事ではないから、早く覚えてもらわないと困るしね」

「ええ。全力で覚えるわ」

 二人は使用人用の台所や食堂を掃除したり、庭の手入れをしたりした。


「掃除だけでこんなに時間がかかるなんて。使用人の区域だけでも広いのね」

 ロンが言った。

「そうなの。掃除だけで大変でしょう? その他にも、仕事は山のようにあるんだから。でもロンはいいわよね。前王様のお話し相手が出来るなんて。そんな機会、滅多にないもの」

「ええ。王家の方のお話し相手になれるなんて夢みたい」

「でも気をつけて。前王様のお話し相手は、今まで何人も変わっているのよ。気難しくて頑固者だって聞いたわ。機嫌を損ねると、すぐにここを辞めさせられるって。大変な粗相をすれば、ひどい仕打ちを受けて捨てられるの……」

 その言葉に一瞬躊躇するものの、城で働ける嬉しさのほうが大きく、ロンはやる気を見せる。

「大丈夫。私、頑張るわ」

「気をつけてね」

「ありがとう」

「そろそろ時間じゃない? 中に入っていましょう」

「ええ。ああ、緊張するけど楽しみだわ」

 二人が中へ入ると、一人のボーイがやってきた。まだ少年のようなボーイである。

「おまえがロンターニャか」

「はい。ロンで結構です」

 すかさずそう言ったロンに、ボーイは無表情に口を開く。

「前王様がお呼びの時間だ。僕は前王様付きのボーイの一人で、ギイル・アンワーだ。ついて来なさい」

 言われるままに、ロンはボーイのギイルについていった。

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