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2、尋問

「陛下、例の少女が目を覚ましました!」

 サーが歩いていると、そんな知らせが来た。

「すぐに行く」

 サーが牢へ向かうと、数人の牢番が少女へ向けて武器をかざしながら、尋問をしていた。武器は魔法封じの杖のようなものである。

「よし、おまえたち。引け」

 そう言いながら、サーは少女の前に立った。少女は怯えた様子で、サーを見つめている。

「おまえのことが聞きたい。おまえは何者だ?」

 サーの問いかけに、少女は疑問の表情を浮かべ、静かに口を開いた。

「私はただの娘です」

 少女を見つめながら、サーは質問を続ける。

「黒魔族か?」

「いいえ」

「では、この国の一般国民か?」

「はい」

 サーの質問に、少女は真摯に答えているが、未だに置かれている状況がわからないようだった。それでもサーは、少女に質問をぶつける。

「家柄は? どこに住んでいる?」

「バーン地方出身です。両親は牧場を……でも父は早くに亡くし、母も最近……」

「では、地方から出て来たのか。一人で?」

「はい……」

「何をしに?」

「働きに出ようと思って……近々、お城の面接があるって聞いて、どうせならお城で働きたいと思って……」

「では、家業は。牧場はどうした?」

「母の病気の時、すべてを売りました……」

「では、今は一文もないと?」

「はい……」

 普通の少女と見られる少女に、サーは考えた。

「……では尋ねるが、おまえはなぜ空が飛べる?」

「なぜって……理由などありません。小さい頃から出来ました。うちは田舎だったので、他人に見られることはなかったけれど……」

「……それでは、黒魔族に知り合いはいるか?」

「黒魔族? とんでもありません。黒魔族に知り合いなんて……」

「……いいだろう。合格だ」

 サーが言った。

「え?」

「おまえは嘘などついていない。この杖が証明してくれた」

「杖が……?」

「門番達の持つ武器である杖は、魔法封じと真実がわかる杖だ。そして私の持つ杖もまた、おまえが嘘をつけば教えてくれる。私の質問に対して、おまえは嘘などついていない。黒魔族でないことは信じよう」

「……あなたはいったい?」

「私はこの国の王だ」

「王様! じゃあここは……お城?」

 少女は驚いて、思わず頭を下げた。

 思わぬ少女の言葉に、サーも苦笑する。

「なんだ。ここが城だと知らなかったのか……おまえの名前は?」

「ロン……ロンターニャ・フリージーです」

 少女がそう名乗った。

「ロンターニャか……変わった名だな」

「みんなからは、ロンと呼ばれています」

「いいだろう。では、ロン。ついて来なさい。おまえに会いたいという人がいる。だが、黒魔族ではないことは信じたが、私はおまえのことをまだ知らない。ここで何かしでかしたら、すぐに処分を考えるから、そのつもりでいなさい」

「……はい」

「ついて来なさい」

 サーに言われるまま、ロンと名乗った少女は、緊張した面持ちでサーについていった。何かを聞いたり出来るような雰囲気ではなく、ロンは不安に思いながらも、黙ってサーについていくしかない。

 城の中をかなり歩いて、サーは父親のいる塔へとロンを連れていった。番人の入口を通り、サー自身の手で塔への入口の封印を解く。そしてサーは初めて振り向いて、ロンを見つめた。

「ロン。これから私の父に会わせる。くれぐれも粗相のないように」

「お、王様のお父様に? でも私、礼儀なんて何一つ……」

「とりあえずはそのままでいい。ただ、失礼な態度は避ける努力をしなさい」

「……わかりました」

 ロンはそう約束をすると、サーについて塔の中へと入っていった。

「父上。例の者を連れてまいりました」

 サーがそう言うと、暖炉前の椅子から、前王が立ち上がって寄ってきた。

「この者がそうか……」

「嘘をついている様子はありませんでした。黒の者ではないようです。両親が亡くなり、城へ就職するつもりで来たそうです」

 サーがそう説明した。前王は、舐め回すようにロンを見つめる。

「ふむ。本当にまだ子供だな……名前と年は?」

「ロ、ロンターニャ・フリージー……十五歳です」

 風格のあるその前王に、ロンは更に緊張して言った。

「ロンターニャ・フリージーか……」

「あ、あの……」

「城へ就職するつもりだったと言ったが、なぜだね?」

 前王の問いかけに、ロンはそっと口を開く。

「私には、もう家族がいないから……だから誰も知らないところで、一からやり直したかったんです。それで、ちょうどお城で召使を募集してるって聞いて……」

 ロンの言葉に一瞬押し黙ると、前王がサーを見つめた。

「……よし、いいだろう。サー、この子を私の侍女にする」

「え? し、しかし父上。この子は礼儀も何も知らない、まだ少女です」

 サーが驚いて言う。だが、前王は静かに微笑んだままである。

「メイドは今まで通りで良い。ただ、空を飛べるという少女と話がしたい。この子を私の話し相手にしたいのだ。ロンターニャ、どうだね?」

 尋ねられたロンは、真っ直ぐに前王を見つめている。

「……王様のお父様と、お話をすればいいんですか?」

「そうだ。私はこの通り、この塔から出ることはしない。最近は退屈で仕方がなかったのだが、おまえならば良い相手になるような気がする。一日一回、私が庭で散歩をする時に、おまえにも来てもらいたい。それ以外は、城で台所なり何なりの仕事をもらえばいい」

「ああ、ありがとうございます、王様のお父様! 本当にお城で働けるなんて。私、一生懸命頑張ります!」

 希望の目を輝かせ、ロンが喜んで言った。

「よし、ということだ。あとは頼むぞ、サー」

 前王にそう言われたサーは、心配そうにしながらも、頷くしか出来なかった。

「……わかりました。でも、適正テストだけは受けさせますよ」

「ああ」

「では無事に合格すれば、明日からということで……今日はこれで連れていきます」

 サーはロンを連れ、塔を出ていった。


「あの……王様。本当に私、ここで働けるんですか?」

 歩きながら、ロンがサーに尋ねた。

「そうだな……父上が気に入ったんだ。おまえは運がいいな。だが一応、適正テストを受けてもらう」

「適正テスト?」

「そうだ。おまえが本当に王家に仕えられるかどうかをテストする。それは、城専属の魔女によってのテストだ。筆記などの難しいものではない。ただおまえに、王家に対して忠誠を尽くす気があるのならば合格だ」

「わかりました。それならば、きっと受かってみせます」

「大した自信だ」

「憧れだったんです。都会で生活するのが……王様に仕えられたらどんなに素敵だろうって思ってました」

「そうか……あ、ゼムン将軍」

 サーが、前方を歩いている男性に声をかけた。城内警備の人間らしい。

「はい、国王陛下」

 ゼムン将軍と呼ばれた男は振り向いて、サーに敬礼をした。

「この子に、城で働く適性テストを受けさせてくれ。父が話し相手に望んでいる」

「かしこまりました。すぐに……」

 ゼムン将軍に頷くと、サーはロンを見つめる。

「では、ロン。あとは彼に任せるから、ついて行きなさい」

「王様は……」

「私はここで終わりだ。テストが済んだら、会う機会もあるだろう。とにかく、あとは彼に任せなさい」

「は、はい」

「じゃあ頼んだよ、将軍」

「はい」

「あっ、あの、王様」

 もう一度、ロンがサーへ声をかけた。すかさずゼムン将軍がロンを止める。

「こら、おまえ! おまえなどが軽々しく口を利いて良いお方ではないのだぞ」

 そう言うゼムン将軍に、サーは苦笑する。

「まあ良い、今日は多めに見よう。なんだ? ロン」

「私のホウキは……ホウキはどこですか?」

 ロンが、切羽詰ったように尋ねた。

「ああ。おまえが飛んできたホウキか。あれも今、危険がないか検査している」

「戻ってきますか?」

「そうだな……」

「お願いです。あれは母が作ってくれたもので、大切なんです。検査するのはいいです。ですが、どうか……」

「わかった。検査が済んで問題がなければ、おまえの元に返すように言っておく」

「あ、ありがとうございます!」

「ではな」

 サーはそう言うと、ロンを残して去っていった。

 ロンはゼムン将軍に連れられ、適性テストを受けに向かった。

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