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16、客人

 それから三年後――。

 一人の青年が、馬に乗ってとある街へと辿り着いていた。そしてそのまま、ロンの屋敷の方へと向かっていく。

 すると、森の中から馬が出てきた。その後をすぐに、一人の少女がホウキに乗って飛び出してくる。

 十八歳になった、ロンである。

「わあ!」

 青年が驚いて、思わず叫んだ。

 ロンも青年に驚きながら、馬を追っていく。

「ごめんなさい!」

 そう言いながらも馬を追い続けるロンに、青年もロンを追って駆けて来た。

「君! あの馬を捕まえたいの?」

 猛スピードで馬を走らせながら、青年が尋ねる。

「ええ、そうよ」

「よし、僕が捕まえてやる」

 青年はそう言うと、腰から縄を取り出し、追っている馬目がけて縄を投げた。

 すると、縄は馬の首に巻きつき、馬は暴れながらも止まった。

 青年はすぐに縄を取ってやると、たずなを取って馬をなだめた。そして、ロンにたずなを渡す。

「ありがとう。助かりました」

 ロンが言った。

「いやいや、なんの……それより、君の名前はロン?」

「え? ええ……」

 名前を言い当てられたことで、ロンは驚きながらも、青年の顔を覗き込んだ。しかし、面識はない。

「やっぱり! 本当に空を飛べるんだね。噂通りだ」

「……あの?」

「ああ、ごめん。僕は、隣の夢国の王子、フェマス」

「王子様?」

 ロンが驚いて言った。

「ああ。君の噂は聞いているよ」

「噂? ああ!」

 その時、ロンが叫んだ。

「どうしたの?」

「大変! 血が出ているわ!」

 フェマスと名乗った隣国の王子は、馬を捕らえる時に怪我をしたようで、腕から血が流れている。

「ああ、不覚だな。僕が馬に傷を付けられるとは」

「すぐに手当てを……私の家は、すぐそこです」

「大丈夫。大した怪我じゃないからね。でも、君と話がしたいんだけど」

「私と? ええ、私なんかで良ければ……とにかく、家へいらしてください」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 ロンは捕まえられた馬に乗ると、フェマスを屋敷へ案内した。


 屋敷へ着くと、ギイルが出迎えた。

「ロン。大丈夫だった?」

「ええ、この方が捕まえてくださったの。夢国の王子様、フェマス様よ」

「し、失礼をお許しください。殿下……」

 ギイルが、慌てて頭を下げる。

「改まらなくて構わないよ。僕は気楽な旅をしているんだ。だから、ロンは僕に様付けで呼ばなくていいよ」

「……わかったわ。彼はギイルといって、私付きのボーイだけど、私の友達よ。何かあったら彼に言ってください。ギイル、フェマスに怪我をさせてしまったの。すぐに手当てをしてあげて」

「わかりました。あとロン。街の娘たちが、もうキッチンにいるよ」

「そうだった。フェマス、ゆっくりしていってくださいね。私はちょっと用事があるので、失礼します。すぐに戻るわ」

 ロンはそう言うと、屋敷の奥へと入っていった。

「忙しそうな娘だな」

 フェマスが、笑いながら言う。

「十八にもなってと、みんな困っていますがね……どうぞこちらへ。すぐに手当てを致しましょう」

 そう言って、ギイルはフェマスを奥の部屋へと通した。


 しばらくして、ロンは客間を訪ねた。

 客間では、すでにフェマスがくつろいでいる。

「失礼します。お加減はいかがですか?」

「ああ、ロンか。すっかりくつろがせてもらっているよ。ここは素敵な所だね」

「ありがとう。王様が賜ってくださったのよ」

「王様? ああ、サーのことか」

「王様を知っているの?」

 ロンが驚いて尋ねる。

「そりゃあそうさ。彼は僕の従兄弟だもの」

「従兄弟?」

「そう。この国の前王の姉が、隣国に嫁いで、その息子同士が僕たちってわけ。ちなみにサーは、アクネと結婚したけれど、アクネも同じ従兄弟同士さ」

「それは初耳だわ。すごい!」

「そう? 王家なんて、身内同士がほとんどだからね。僕はそんな生活が嫌で、一人旅を続けているんだ。もう三年になるかな……幸い、僕は王になる器じゃないし、次男だし、男兄弟は下にもまだいるしね。困らないのさ。だから気軽に接してくれ。君なら大歓迎だ」

「ありがとう、フェマス。そうだわ、これをあなたに」

 ロンはそう言って、焼きたてのクッキーを差し出した。

「ありがとう。クッキーかい?」

「そう。今、街の娘たちに習っていたのよ。時々、一緒に作っているの」

「へえ、変わっているな。一般市民と、そうして付き合うのかい?」

「あら。私だって、格上げされたものの、元は一般市民よ。違うのかしら?」

「……それもそうだな。僕も旅の途中は、そんなことは言っていられないしね。王家の中でも、一般市民の知り合いが多い。ありがたく頂くよ」

「ええ、どうぞ。それより、私の噂って……?」

 フェマスがなぜ自分のことを知っているのか気になって、ロンが尋ねた。

「ああ。君が空を飛べるっていう噂さ。空を飛べるなんてすごいなと思って、いつか会いたいと思っていたんだ。今回は久々にこの国に来れたし、サーに会う途中にでも寄ろうと思っていたんだ」

「そうだったの……でも、私は凄くなんてないわ。飛ぶことしか出来ないもの。何も出来ない……それに、もう十八になったんだからって、最近ではメイドたちがうるさく言うのよ」

「アハハハ。それは僕も一緒だよ」

 フェマスは豪快に笑う。

「本当? もう少しおしとやかにしなさいとか、結婚を考えなくちゃとか……私も、もう飛ぶことはあまりしないようにしているの。珍しがって、人がたくさん来ることもあったしね……でも、さっきのは内緒。馬が逃げたっていうから、つい……」

 ロンは、バツが悪そうにそう言った。

「わかった、内緒にしておくよ」

「不思議。王子様なのに、ちっとも怖くないわ」

「アハハ。僕は怖いなんて言われたことはないな。小さい頃から遊び人で通ってきたからね。こっちは怖いもの見たさで、いろいろ転々として来たよ。でも、君はその何よりも刺激的だ。それに美しい」

「う、美しい? 初めて言われたわ、そんなこと……」

 顔を赤らめて、ロンが言う。

 だがロンは、変わらずおてんばなままだが、見かけは十八歳の美しい少女であった。

「本当? 君の周りの男は無粋だな……」

「やめてください。おかしくなりそう。私は男勝りで、おてんばで、バカで……」

「ロン。君は綺麗だよ。いろんな女性を見てきた僕が言うんだ。間違いないよ」

 プレイボーイで言い慣れているフェマスだが、本心からそう言った。

 事実、こんなに打ち解けた少女は初めてで、ただの上流階級の人間とは違う。

「ありがとう……でも私ね、憧れている女性がいるの。素晴らしく美しく、完璧な人……」

 突然、ロンがそう言った。

 フェマスは身を乗り出して、ロンを見つめる。

「そんな人がいたら、会ってみたいね」

「お妃様よ」

「アクネが? まあ、確かに綺麗なのは認めるが……そんなに完璧だったかな?」

「ええ。だって王様を支えられるような、素晴らしい方だもの」

「そんなものかね……しかし、アクネは女性として不能だと言われて、今、宮廷内では離婚も検討していると聞いたが……」

「え、どういうこと?」

 不穏な話に、今度はロンがフェマスに食いついた。

「うん……まあ、アクネは子供が産めない体だということだよ」

「お妃様が? そんな……」

「それは妃として、致命的だからね。最近、検査でわかったことだそうだが……それも心配で、僕はサーを訪ねることにしたんだ」

「そうだったの……でも、大丈夫よね? お妃様、王様と離婚なんてしないわよね?」

 不安げな顔で、ロンはフェマスを見つめる。

 ロンがサーに恋心を抱いていても、アクネとの仲を裂きたいとまで思ったことはない。二人の間に入る余地がないから、この屋敷に住んでいる節もあるのだ。

 だが城内の事態を知って、ロンは不安に苛まれる。

「それはわからないけれど……まあ、離婚はないと思うよ。王家の人間に、離婚はご法度だからね。でもどうだろうな……なんらかの特別措置は取られるだろう。子孫を残す役割の妃が、そんな体ではいけないからね。国が滅びてしまう」

「そんな! なんとか出来ないのかしら? 大魔女様の力でとか……ああ、お可哀想な王様とお妃様。私に出来ることはないのかしら」

 ロンは、王と妃の哀しみを察し、悲しくなった。

「……本気で言っているのかい? 崇拝しているな」

 そんなロンを見て、フェマスが口を曲げて言う。他人のためにこうまでなる人間を、見たことがなかった。

「だって王様とお妃様は、私を認めてくださったもの。なにより、優しくて素敵な方だわ」

「そう……まあ、我々に出来ることはないよ。本人たちの問題だ。まだ協議中だし、どうなるかわからない。しかし、サーもアクネも幸せ者だな。それに君は優しいんだね。こんなところで、君みたいな友達が出来るとは思わなかったよ」

「そうだわ、フェマス。早く王様たちの元へ行ってあげて欲しいけど、怪我もあるし、好きなだけいてくださいね。私もあなたみたいなお話し相手が出来てとても嬉しいもの」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらって、しばらく居させてもらうよ」

「よかったわ。ゆっくり話が出来るわね」

「そうだね」

 二人はすぐに打ち解け合い、話が尽きることはなかった。

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