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14、告白

 その時、ちょうどロンは、城に着いた所だった。城はどこからともなく煙が立ち込め、裏手には火が上がっている。

「火事だ!」

 その言葉に、城からは使用人や家臣達が逃げていた。

「お、王様は? お妃様は?」

 ロンの声に、一同がどよめいた。

「そう言えば、お姿が見えないぞ! 陛下は何処だ!」

 一同が、一斉に声を上げる。

「大丈夫だ。陛下は瞬間移動出来るんだ。きっとすでに、安全な所に……」

「いや、さっき前王の塔に、妃と行かれたのを見たぞ。あそこは王でも魔法が使えない!」

「なんだって! 火の手の方じゃないか!」

 そんな声を聞いて、ロンはホウキに飛び乗ると、城の中へと勢い良く飛んでいった。


「王様――!」

 猛火の中を、ロンは塔へと突き進んでいった。しかし、もはや城の中に人はいない。

 ロンは窓から外へ出ると、庭の方から塔へと向かった。

「王様!」

 サーがロンの声を聞きつけたのは、高い塀に囲まれた塔の庭であった。

「王様! 今、行きます!」

 サーとアクネを見つけると、ロンは高い塀の上から庭へと降りようとした。

 しかし、強いバリアに囲まれたその塔には、入る余地はない。

「どうして? 今までだって、庭で飛んでいたのに……」

「ロン! 庭を囲む塀の境に、バリアが張ってあるんだ。外からの進入を防ぐため、塔の入口と同じような強いバリアが囲んである。そこからは入れない!」

 サーが、下でそう叫ぶ。

「そんな……」

「ロン。私は杖が無くて、大きな力が使えない。誰か人手を呼んで、すぐに火を沈下させてくれ。そして、私がここにいることを伝えてくれ」

 サーがそう言った時、塔の上層部が爆発した。

「みんな、もう知ってるはず……時間は無いわ」

 ロンはそう呟くと、もう一度バリアに体当たりする。

 すると、今の爆発で歪んだバリアと、ロンの強い意志が、ロンの体を庭へ引き入れた。

 バリアに傷付きながら、ロンは庭へと落ちていった。

「ロン!」

 サーのその声に、ロンは正気を戻して間一髪降り立った。

「王様、お妃様! ご無事ですね?」

「なんとかな……しかし、ここから出ることは無理だ」

「いいえ、私が必ず助けます。どうぞホウキに乗ってください」

「なんだって。飛ぶ気か? 無理だ。父上一人乗せられなかったじゃないか」

「でも、今はそんなこと言っている場合じゃない。一ミリしか浮かばなくても、何もしないよりはましです。やらせてください。さあ、早く乗って下さい! バリアに囲まれたまま塔が崩れたら、もう逃げ場はありません!」

 ロンの言葉に、サーとアクネはホウキに近付く。ロンを先頭に、アクネを挟んでサーが乗った。

「しっかり掴まっていてください」

 そう言うと、ロンは全身全霊をかけて集中した。

 体がいつもより熱くなった。しかし、そんなことは言っていられない。ロンは何も考えられず、サーとアクネを助けることだけを思った。

 そうこうしているうちに、ホウキは数センチ浮かび上がった。

「お願い。王様たちを助けて……!」

 ロンがそう祈ると、ホウキは瞬く間に宙へと舞い上がり、バリアを越えて高い城壁を越えた。

「わあ。飛んでるわ」

 思わずアクネが言った。

「ロン……」

 前王一人乗せて飛べなかったロンに、サーは信じられない思いでロンを見つめる。

 ロンはそのまま、城の入口付近まで飛んでいった。

 逃げた人々が、ロンたちを指差す。

「王様とお妃様だ! お二人共、ご無事なようだぞ!」

 しばらくすると、ホウキは地面すれすれを駆け抜けた。そして次の瞬間、ロンはホウキから落ち、何度か地面をバウンドして止まった。

「ロン!」

 未だ飛んでいるホウキに危険を察知したサーは、アクネを抱くと瞬間移動した。そして、逃げた人々の中に現れたのだった。

「王様にお妃様! ご無事ですか!」

「ああ。それより、ロンを……ロン!」

 急いでサーがロンに駆け寄ると、ロンは傷だらけで、息も絶え絶えだった。

「ロン! 死ぬな!」

 サーは周りを見回すと、一同に手を伸ばす。

「すぐに消火と、城の修復に当たれ。それから、安全な場所にロンを運ぶんだ。すぐにしろ!」

 そんな命令により、数人の男がロンを持ち上げる。

「そっと持て。アクネも安全な所へ……キキ、キキはどこだ?」

「ここに……」

「杖を返せ。それから、ロンを助けたい。力を貸してくれ」

「はい、すぐに……」

 サーは、安全な城の一角の部屋にロンを寝かせると、自分の魔術とキキの魔術で、ロンの傷を治していった。

「これはすぐには治らん……この子の傷は、もはや深々と刻まれている……」

 キキが言った。

「それでも、なんとしてでも助ける。ロンは命の恩人だ。ああ……この小さな体のどこに、あんな力があったのか。私たちを助けるために、この子は……この子は、この子の父と同じ、英雄の血を受け継いでいるに違いない」

 眉を顰めて、サーが言った。心身ともに傷ついたロンを見て、なんとしてでも助けなければと思う。

「陛下、申し訳ありません。やはりあなたから、杖を離すべきではなかった」

「今はその話は良い……今はロンを助けることだけに集中しろ」

「はい……」

 ロンは、サーとキキの力によって、なんとか命は取り留めたものの、その傷を治すには時間が掛かることを、大きな無数の傷が物語っていた。


 数日後。ロンは、豪華な造りの部屋で目を覚ました。

「……ここは?」

「目が覚めましたか? ここはお城の一室よ」

 声をかけたのは、見知らぬ一人のメイドである。

「あっ、王様は? お妃様は? お城はどうしたの?」

 事件のことを思い出し、ロンは慌ててそう尋ねた。

「大丈夫。あなたのおかげで、王様もお妃様もご無事です。お城も、みんなの魔力でもう元通りになったわ」

「無事……よかった……」

 ロンは、ホッとした様子で微笑む。

「それよりあなた、三日も眠り続けていたのよ」

「そんなに? そういえば、体がだるいわ」

「強い魔力を使った極度の疲労だって、大魔女・キキ様はおっしゃっていたわ。でも、死線を彷徨っているあなたを、王様とキキ様が魔力で回復させたのよ。それでも、大きな傷は自然に治さないと無理みたい……」

「私はいいの。王様とお妃様が無事でいてくれただけで。本当によかった……」

「王様、きっと後で顔をお出しになるわ」

「え、ここへ?」

「そうよ。毎日見舞ってくださったのよ。あなたは王様にとって、命の恩人。英雄だもの」

「そんな。私、必死で……」

 そこに、サーが入ってきた。

「おお、目覚めたのか? ロン」

 ロンの様子を見て、嬉しそうにサーが声をかける。

「あ、あの……助けてくださったそうで、ありがとうございました」

 少し照れて、ロンが言った。サーは苦笑して首を振る。

「何を言っている。助けられたのはこっちの方だ。どうだ? 気分は」

「少し体が痛いですが、大丈夫です」

「無理はするな。かなりの負傷と疲労だった。大の人間を二人も乗せた飛行術は、おまえが初めてかもしれないな」

 サーがそう言うと、ロンは静かに微笑んだ。

「どうした。眠いか? それとも腹が減ったか?」

「両方……」

「ハハハ。両方か。では、すぐに用意させよう。しかし、顔色が良くなったようで、本当に良かった」

「王様。私、お妃様との約束……」

 突然、すまなそうにロンが言った。

 ロンは、街で大きな善行をすれば自分を信じるという、アクネとの約束を果たせなかったのである。

「ああ。心配はいらないよ。おまえがここにいたいと望むなら、もうアクネも咎めない。なんと言っても命の恩人だ。これは、大きな善行に他ならないだろう? 我々の危機を救ったのだから」

 ロンの心配をよそに、サーは優しくそう言った。

「王様。よかった……」

「ありがとう。改めて礼を言うよ」

「いいえ、そんな……」

「しばらくゆっくり休みなさい。今後のことは、またゆっくり考えよう」

「はい……」

「邪魔をしたな。おやすみ、ロン」

「おやすみなさい。王様……」

 そのまま、ロンは食事をせずにもう一度眠りに入った。しかし痛みは無く、サーとアクネを無事に救えたこと、また城に残れたという安心感が、ロンを包んでいた。


 数週間後。すっかり回復したロンは、バルコニーで風に当たっていた。

 そこに、サーがやって来る。

「王様……」

「調子はどうだ?」

「はい、もう大丈夫です。すぐに仕事につけます」

「そうか……」

 いつもと様子が違うサーに、ロンは首を傾げる。

「王様?」

「いやな、やはり私としては、おまえを格上げしたいと思っている」

「格上げ?」

 ロンには、その意味がわからなかった。

「そうだ。だから使用人ではなく、我々と同席して食事でも出来るような……」

「でも、お妃様は……」

「賛成してくれている。今回のことで、アクネもおまえに借りが出来たことになるからね」

「借りだなんて、そんな……」

「ロン。おまえには、父親の代から世話になっている。金に困らない生活を送ってほしい。もちろん、おまえが仕事をしたければしていい。野蛮だから飛ぶなとか、馬に乗るななどとは言わないよ。今まで通り、好きに生きればいい。だが、身分高き人間としての称号は、受け入れてもらいたい」

 サーの申し出に、ロンは静かに頷いた。

 なぜ身分や格が必要なのかはわからなかったが、サーが直々に申し出てくれている以上、断るいわれはない。

「今まで通りで良いというなら……それに、王様がそうしたいのなら……」

「そうか。よかった……私もおまえに、どう恩返ししたら良いのかわからなかった」

「……でも王様。私などが裕福な生活を送ってもいいのでしょうか……」

 自分の存在を問うように、ロンが俯いて言った。

 ロンは今までも普通の名もなき国民として育ってきたし、王家の人間が英雄として思ってくれている父親も、忌み嫌われている黒魔族には変わりないのだ。

「誰にも、何も言わせはしないよ」

 強い言葉でそう言いながら、サーは優しくロンの肩を抱いた。

「わかりました。お受けします」

「よし。これからは、今まで以上に幸せになってくれ、ロン」

「王様……」

 優しく微笑んだサーは、夕陽に照らされ輝いていた。

 ロンはたまらず、口を開く。

「王様……好きです……」

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