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Zero-0-The Fool's  作者: 梟 奏汰(旧:山猫幸男)
episode1『死神』
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第五話

 最後の一線だけは、越えないようにしていた。


 あたしのことはいい。

 もともと、そんなに学校に馴染めてなかった。


──これは、なんだ? アカネの、記憶……?──


 あいつは言った「お前が来なければ、手を出さない」って。

 なのに、それを破った。


 あいつを止める。


 これ以上、野放しには出来ない。

 放っておけば、あいつはどんどんやり方が過激になっていく。


 そして、ハヤトはきっと、なんでもなさそうに振舞うんだ。あたしの前では。

 あたしに、心配させたくないから。

 そんなの嫌だ。


 ただ傷ついていくハヤトに、あたしは耐えられない。

 これは、あたしのエゴだ。

 ハヤトのため、なんて綺麗な理由じゃない。

 あたしが嫌だから。ただ、それだけ。


 あいつの居そうな所は分かってる。あとは、『コレ』で……


──そう言って、アカネはパーカーの中にある何かを握りしめた──


 ……ハヤト、ちゃんと帰ったかな。


 少しだけ、心配になって、決意が揺らぎそうになる。

 ……大丈夫、ハヤトはきっと帰ってる。

 だから、アタシはあの野郎を始末する。

 明日から、ハヤトは平穏に暮らせる。それだけで、充分。


 近くの繁華街。

 そこにあるゲーセンに、アイツはよく来るらしい。


 ……来た。


 殺してやる。

 もう、お前なんかに怯えるあたしじゃない。

 今の、あたしは……!


──加津を見つけたアカネは、ポケットから取り出した『何か』を握りしめ、奴に迫ろうとする。──


「アカネッ!!!!!!」


 アタシの名前を呼ぶ声。

 それを聞いた途端、あたしの頭の中は真っ白になった。


 なんで? どうして居るの? いつから?


 次々浮かんで来る疑問。


 それを全部押しのけて、気づいた事実に、アタシは戦慄する。


『今日は、『匂い』をつけてない……!』


 『気配』がした。


 居る……『ヤツ』が。

 ソレは、ハヤトの背後に迫っていて……


「逃げて!」


 無駄だと分かっていても、声を上げずにはいられなかった。

 もうそこにハヤトの姿はない。


──アカネは、すぐさま手にした『なにか』で、自らの胸を突き刺す──


骸装ガイソウ!」


──アカネが、聞いたことのない単語を叫ぶと同時、目の前の空間がガラスのように割れた。

 そして、朱い世界へと飛び込み、地に降り立つ。

 先ほど居た繁華街と、『よく似た場所』に。

 そこで、アカネは見た。

 尻尾の針から血を滴らせる、虫型の『捕食者プレデター』。

 それと、その下に倒れた男の……『ハヤト』の姿を──


「ハヤトッ!!」


 頭に血が上っていくのが分かる。

 沸騰して、湧き上がるように。


「てめぇッ!!」


──アカネは飛び掛かる。

 背中に組み付いて、不愉快な羽音を響かせる羽を、もぎ取る。

 地に落ちた『虫』は、体をうねらせて、アカネを振り落とす。

 それから、『虫』が反撃として刺し殺そうとする尻尾の針を掴み、立ち上がって『虫』を背負い投げる。

 そして、『虫』の尻尾から針を引きちぎり、胴に飛び乗った。

 すると、獣のように雄叫びをあげながら、手にした針で、何度も何度も、『虫』を突き刺した。

 『虫』が完全に動かなくなる時まで……──


 ……どうしよう、どうしたらいい?


──『虫』を殺したアカネは、俺の傍へ駆け寄った。

 出血で、体の周りは水たまりのようになっていた。

 瞳孔は開ききり、息をしている様子もない──


 ……現実逃避のしようもない。

 誰が見たって、これは死んでる。

 思ったよりも、頭が冷えてて、自分でも驚いてる。

 もっと、取り乱すかと思ったのに……


「……ああ……ああ……」


 取り乱せれば、狂えれば……楽だったのに。

 なまじ頭が冷えてるせいで、『理解』してしまう。


「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 違う、違う、違う、違う!!!!!!!!!!!

 こんなことのために、力を手にしたんじゃないのに……!


 分かってた。奴らが、ハヤトを狙うかもしれないってこと。

 誰よりも、あたしの近くに居て、もっとも狙われる人。

 あたしが、ハヤトを護ることを怠った。

 あたしが、自分の感情を優先したせいで! 


 あたしが、もっと早く、決断をしていれば!

 ……ハヤトから離れたから……!

 どう償えばいい……?

 ハヤトが加津に目をつけられたのも、『虫』に狙われたのも、死んでしまったのも!

 全部、全部! あたしのせいだ!


「あたしなんか……居なければ……」


 ……ああ。

 そうだ、あたしが居なくなればいいんだ。


──アカネは、倒れた俺の体を抱えて、顔を撫でる──


「ごめんね、ハヤト。巻き込んじゃって……今、助けるから」


──そして、自分の胸に爪を立て、その手を中に押し込んでいく。


 苦悶の声を上げながらも、手を止めることはなく……

 自らの心臓を、取り出して……引き抜いた。


 それを、アカネは俺の空洞になった胸に突っ込む。

 すると、アカネの心臓は俺の体と結びついて……鼓動し、脈打ち始める。

 驚くべきことに、広がっていた胸の穴も次第に埋まっていく──


「良かった……これで、ハヤトは……」


──アカネが安堵したのも束の間、彼女はせき込み、血反吐を吐く。

 意識が薄れていくのを、歯を食いしばって耐えていた──


「このまま、死ねない……ハヤトを、外に……!」


──拳を力強く握りしめて、強く地面に叩きつける。

 腕が壊れることも構わず、全ての力を振り絞って。

 アスファルトのような地面がひび割れて、砕ける。

 その向こう側には、俺のよく知る世界の光景が広がっていた。

 そこに、息を吹き返し始めた俺の体を、送る。

 次第に閉じていく『境界』。

 アカネは俺の姿を見つめ続ける。

 視点が、低くなっていく。まるで崩れているように。

 それでも、アカネは取り乱す様子をみせない──


「……これで、良かったんだ。あたしは、これから先もずっと……そばに……」

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