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Zero-0-The Fool's  作者: 梟 奏汰(旧:山猫幸男)
episode1『死神』
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第四話

 杞憂ならそれでいい。

 むしろ、そうであって欲しかった。


 アカネの家の側で待ち伏せる。

 俺が出てからそれほど待たず、アカネは家から出てきた。


 パーカーに着替え、マスクをしている上にフードを被って、顔を隠している。

 周りを気にしていて、どこか後ろめたそうだった。


 悪いことをしている。

 その自覚はありつつ、俺はアカネを尾行した。


 すると、普段のアカネなら確実に行かないであろう歓楽街にたどり着く。

 ゲームセンターの向かい側でアカネは立ち止まる。

 そして、身を隠しながらジッとゲームセンターの入口を見つめていた。


 俺も、見つからないように身を潜めた。

 幸い、ここは人通りが多いから、紛れて隠れるのは簡単だった。


「お、ゲーセン寄ってこうぜゲーセン」


 そこでしばらく様子を見ていると、聞き覚えのある声が耳に入る。

 現れたのは加津と、その横に一人……同級生の良太だ。


「りょーちん、財布だーして」

「いや、カズくん……俺こづかいヤバくて」

「えー、聞いたよ、バイトしてんだろ?

 学校に黙ってさ。いいじゃん、少しくらい」

「いや、でも……」

「なに、口答えすんの?」


 そう言って、良太の首に腕を巻き付ける加津。

 良太は顔から血の気が引いていく。

 その後、カバンから財布を取りだした。

 加津は、それを奪い取る。


「サンキュー。いやー、マジ助かるわ。

 俺んち、マジで厳しくてさぁ。

 毎日財布の中身確認されて、一円単位で何に使ったか聞かれんの。

 マジでうざいっしょ。あとで返すからさ、あとで」


 加津の奴……また、あんなことを。

 でも、良太だって加津にくっついてイジメに加わるような奴だ。助ける義理はない。


 アカネの方に視線を戻す。

 その時、アイツの目つきは変わっていた。

 瞳孔を大きく開き、ただ一点……加津を見つめている。


 そして、パーカーのポケットに手を突っ込んで……何か尖ったものを取り出した。


 止めなきゃ……!


 相手がどんな奴だろうと、殺しちゃいけない。

 アカネが、あんな奴の為に罪を背負うなんてダメだ!

 俺は、咄嗟に体が動いていた。


「アカネッ!!!!!!」


 俺の声に驚いて、アカネは一瞬、体を震わせて立ち止まる。

 そして、こっちの方を振り向いて……俺の後ろを見て顔を青ざめさせる。


「逃げて……」


 アカネの言葉を聞き取る前に、俺の視界は、朱く染まった。

 

 先ほどまであった人の波が、突然消え去って、俺は戸惑った。

 目に映るなにもかもが、朱い。

 人気が無く、まるで『世界が死んでいる』かのようだった。


 けど、背後に何かの気配を感じた。

 その瞬間、俺は背筋に寒気が走り、体が固まった。


 後ろにいる『なにか』。それが何なのかは、分からない。

 でも、本能で感じた。


 『食われる』側の恐怖を。


 逃げようにも、すぐには体が動かなくて……

 気がついたときには、胸を太く鋭いものが貫通していた。

 それから何があったのか、それは分からない。

 だけど、消えゆく意識の中で、誰かが呼びかけてくれたのは分かった。


 ……そして、次に目が覚めたとき。

 目に映ったのは、病院の天井だった。

 聞けば、俺は繁華街の道端で倒れていて、運ばれてきたらしい。

 高熱でうなされて、一時は四十度を超えていたとか言われた。

 生きているのが不思議だと言われた。


 検査しても体にはなんの異常もなかった。

 ただ、胸には大きな傷ができていて……

 なんとなく、胸の中に『異物』がある感覚があった。



 悪魔は、そこまで俺の記憶を引き出すと、指を離す。

 そこで、俺の意識も『今』に戻ってきた。


「な〜るほど、分かってきたぞ」

「分かってきた? 何がだ……」

「お前も思い出した筈だ。お前は一度、心臓を貫かれている。

 人間なら、この時点で死んでいるだろうが」


 ……そうだ。

 よく考えなくても、分かることじゃないか。


 だけど、俺は今も生きてる。


「お前は心臓を貫かれ、死んだ。

 そして、お前が胸の中に感じてる異物感。

 おそらく、お前の心臓は『お前のものじゃない』。

 どっかのモノ好きな死神が、お前に心臓を突っ込んで生き返らせたってことだ」

「心臓を……?」


 その時、突然胸が苦しくなる。

 まるで、誰かの手に心臓が握りつぶされているようだった。

 そして、次に頭痛。頭の中で、なにかが膨らむ……


『……やと……隼人……!』


 ぼんやりと聞こえてくる声。

 脳裏には、倒れた誰かの……いや、俺の姿が映る。

 身に覚えのない記憶……

 もしかして、この心臓の……本当の持ち主……?

 聞こえてくる声には、覚えがある。

 まさか……この心臓を持ち主は……

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