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第三話 The Eyes(3)


「復讐、とは随分物騒ですね。たしかに三年前の事件は、今もなお犯人が捕まっていません。それでも、貴方方が犯人ではないことは立証されています。それなのにアンジェラ・ベイリアルさんが復讐に来ると、そう考えていらっしゃるのですか?」


「あれはそのようだ」


「ベイリアル卿も、そうお思いなのですか?」


「可能性の一つとして考えてはいる。たが、今の姪にはもう何も残っていない。あるのは、あの屋敷と執事と名前だけだ。仮に犯人だったとしても、人を雇えるほどの金など持ってはいない」


「確信がおありなのですね?」


「ある。姪の後見人は私だ。余分な金は与えていない」


「…そうですか。失礼なことをお聞きして、申し訳ありません」


 そのとき、膝の上で握りしめられていたギルバートの拳は、微かに震えていた。


「いずれにせよ、トリスタンの件でお前たちが動く理由はできただろう?さっさと犯人を炙り出して始末してくれ」


「…分かりました。早急に対応します」


 これで話は終わりだと言わんばかりに、二人を見送ることもなく応接間から出て行ったゴードン。その背中を見送っていたダリウスがギルバートへと顔を向ければ、珍しく嫌悪感をあらわにした顔が見えた。


「どうした、ギル。おっかねぇ顔してるぞ」


「……いえ。あのご夫婦の、ベイリアルさんへの対応があまりにも許しがたくて…」


「前ベイリアル当主の家から搾れるだけ搾り取って、後見人とは名ばかりという感じだったな、あれは」


「……ベイリアルさんのところへも聴取に行きますよね?僕も行きます」


「おい、ギル…」


 自分を置いて応接間を出て行ったギルバートの背中を見て、ダリウスはやれやれと溜息をついた。


「取り込まれるなって言ったそばから、もう取り込まれつつあるな」


 見た者を魅了する魔性の少女。確かに普通の十六やそこらの少女にはない凄艶な雰囲気を思い出して、ダリウスは小さく身震いをした。そうしてギルバートのあとを追いかけようと応接間を出た瞬間。


「――ねえ、おじさん」


 聞き慣れない若い声に振り向けば、壁に背中を預けて立っている少女が目に入った。


「おじさんって、俺のことか?」


「そうよ。アンタしかないでしょ?」


「………」


 厄介なものに声を掛けられたような気がして、ダリウスは思わず自分の頭を掻いた。


「お兄様、殺されちゃったんでしょ?お父様もお母様も知らない話、わたくしが教えてあげようと思ってきたの」


 お兄様、ということは、彼女はベイリアル家の娘ということである。


「君は…モニカ・ベイリアルさん?」


「そうよ」


 殺されたトリスタンは、父親譲りのくすんだ亜麻色の髪に、サファイア色の瞳。目の前のモニカは、母親譲りの豊かな金色の髪に、ターコイズ色の瞳をしていた。


「―――、」


 同じ金色でもアンジェラ・ベイリアルの髪は輝く黄金のようだったと、ダリウスはふと思った。


「それで?話とは何ですかな?」


「お兄様を殺した犯人のことよ。お父様もお母様も気づいてないみたいだけど、お兄様ったら、あのアンジェラがだぁい好きだったのよ」


 トリスタンに情がないのか、はたまた歳の近いアンジェラが気に入らないのか。モニカの口調には、明らかに二人を侮辱する響きがあった。


「昨日、お兄様が深夜に部屋から出て行く音を聞いたの。お兄様は夜遊びもしていたけど、わざわざあんな時間に出て行くような人じゃないわ。お兄様が声をかければついてくる馬鹿な女ならいっぱいいるし、そんな女たちにお兄様は自分の都合を合わせたりもしない。――つまり、あんな夜中にお兄様を呼び出せるのは限られた人だけなの」


「それがアンジェラ・ベイリアルだと?」


「そう!お兄様はアンジェラが欲しくて欲しくて堪らなかったの!でもそんなことがお母様に知られたら、お母様は発狂してお兄様を部屋に閉じ込めちゃうかもしれない。だからお兄様は誰にも知られないように、ずーっと自分の心の中だけに隠していたの。まあ、わたくしはすぐに分かってしまったけど」


 笑いながらそう話すモニカの目は、他者を陥れる者の目だった。


「それが分かったとき、わたくし、お兄様を軽蔑したわ。もう気持ち悪くて近づきたくないもの。――あ、でももう殺されちゃったから、わたくしが不快に思う必要はなくなったんだわ」


「……情報をどうも。捜査の参考にはさせてもらいますよ」


 年頃の少女とは思えないほど自分への欲に塗れたモニカの様子に耐えられず、ダリウスは早々に話を切り上げてその場から立ち去った。


「――ったく。この家族はどいつもこいつも腐ってやがる…」


 思わずベイリアルの敷地内でそう吐き捨ててしまうほどに、ダリウスもまた、現ベイリアル当主一家の異様さを感じていた。


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