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第三話 The Eyes(2)


「いやあぁぁぁああ!トリス…!トリスゥゥゥ!」


 二人を出迎えたのは、ヘンリエッタの泣き叫ぶ声だった。


「ああ…っ、わたくしのトリスが…!どうしてトリスがこんな目に遭わなければならないの!」


「――泣き叫ぶな、みっともない。警部たちが来たぞ」


「っ、みっともないですって!?あなた、何も感じないの!?トリスタンが死んだのよ!?殺されたのよ!?」


「………」


「トリスタンが死んだのはあなたのせいよ!アレを放っておくから!アレを自由にしておくから、こんなことになったのよ!!」


「――ヘンリエッタを外に」


「か、かしこまりました」


「いやよ!放しなさい!わたくしに触らないで!」


 一向に落ち着く気配のないヘンリエッタを退出させようと、ゴードンから命令を受けたメイドたちが数人がかりでヘンリエッタを丁重に捕らえる。


「犯人はアレよ!早くアレを捕まえなさい!早く死刑にしてしまうのよ!」


 メイドたちに抑え込まれながら、応接間から退出したヘンリエッタ。ようやくその場が静まり、話ができる状態になったところで、ゴードンは二人に座るよう目で合図した。


「――念のための確認だが、あの死体は本当にトリスタンかね?」


「恐らく。実証するには一度、署内観察後にご家族の確認が必要となります。本来であれば、髪や目の色などから身元を確認するのですが、今回は…」


「眼球がない、か」


「……はい」


 言い淀んだダリウスの代わりに言葉を続けたゴードンは、深く息を吐いた。


「現場を見たお前たちの推測で構わん。どういう状況で殺され、どんな犯人像が言ってみろ」


「あくまで推測ということでお話します。まず、背中に刺し傷が一つありました。他に刃物による傷は見受けられなかったので、不意を突かれて刺されたのではないかと考えています。次に両手足。こちらは…」


 再び言い淀んだダリウスに、ゴードンが視線を送る。何の心の準備もない身内にあまりにも残忍な犯行内容を聞かせるには忍びないと考えたダリウスだったが、ゴードンの落ち着きぶりを見て再び口を開いた。


「…指の向きや皮膚の状態から察するに、骨が砕かれています。手首、足首には縛られた痕があり、その傷口から…生きたまま…手足を砕かれたのではないかと」


「……っ、」


 既に一度ダリウスからその話を聞かされていたギルバートでさえ、また酷く気分が悪くなる内容だった。


「――眼球は?」


 それはゴードンとて同じなのだろう。気丈に振る舞って見せてはいるが、その声が僅かに震えていた。


「…生きたままか、死んだあとか、判断はつきません。ただ、死因は恐らく出血死だと思われます。入れられていたという木箱でさえあの出血量だとなると、犯行現場ではもっと大量だったことが推測できます」


「――…そうか」


 応接間の空気は酷く重い。


「それから犯人像ですが、今回の事件で複数犯である可能性が浮上してきました」


「複数犯…」


「はい。あの木箱のサイズとご子息の体重から考えてみても、一人だけでここまで運ぶのは難しいと思われます。犯人が複数人でここへ木箱を運んだか、もしくは中身を知らない何者かが金銭目的などで手助けをした、と考えています」


「…お前たちは姪のところへ行ったのだったか。ヘンリエッタの言う通り、姪が犯人だという可能性もあり得るのか?」


「アンジェラ・ベイリアルさんが直接犯行に手を下しているという可能性は低いと思われます。彼女の華奢な身体つきでは、かなり勢いをつけない限り、ご子息の傷口のような深い刺し傷を作ることはできません。手足を砕くことも同様です」


「代わりに誰かに指示をしていた可能性は?」


「十分にあり得ます。その場合、協力者として一番に名前が上がるのは彼女の執事でしょうな。ただ、アンジェラ・ベイリアルさん同様に、彼も華奢な体格でした。不可能というわけではないですが、やはり彼一人で行える犯行ではないように思えます」


「………」


「――あの、ベイリアル卿」


 何かを考えるように黙り込んだゴードンに、ギルバートが声をかけた。


「込み入ったことを承知でお聞きしますが、どうしてご夫人はあそこまでアンジェラ・ベイリアルさんが犯人だと断言されているのでしょうか?何か心当たりがおありだというように見えます」


「……あれは欲深い女でな。ベイリアルの家督を継ぐのが私ではなく弟だと知ったとき、それはもう悪魔のような形相で毎日、弟夫婦を罵っていた。あれはベイリアルの名前と結婚した女だ。弟夫妻が死に、私が家督を手にした今、今度は姪が復讐に来ると妄想を膨らませているのだ」


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