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美しき令嬢の復讐劇  作者: 秋乃 よなが


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第五話 The Hair(3)


「…あいつ、急に出て行ったかと思えばここに来たのか…」


 ダリウスが険しい表情でその馬車を睨み付ける。そうして玄関口のノッカーを鳴らそうとしたとき、男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「――どこだ!?アイツはどこだ!?」


 扉越しでははっきりと聞こえてこないが、アンジェラの声も聞こえるような気がする。


「ええい、白々しい!貴様がアイツにやらせているのだろうが!?」


「きゃあっ」


 ただならぬ雰囲気を感じて、ダリウスとギルバートが無断で屋敷の中へと入る。すると玄関ホールには、今まさにアンジェラを庇ってゴードンのステッキで殴られたであろうルークの姿が一番に目に入った。


「貴様ぁ!使用人のくせに生意気な…!」


 ゴードンが再び大きくステッキを振り上げる。それが振り下ろされる前に、ダリウスとギルバートはゴードンを押さえるためにその身体目掛けて飛びかかった。


「ベイリアル卿!落ち着いてください!」


「放せ!放せえ!」


「僕たちは聴取にここへ来ました!これ以上乱暴を働くのであれば、捜査を妨害されたとして貴方を逮捕せざるを得ません!」


「………!」


 ダリウスとギルバートの説得が耳に届いたのか、興奮で息を切らしながらもゴードンは大人しくなる。


「ベイリアル卿、ここは我々に任せてください。――ギル、お前はここを。俺は卿を馬車まで送ってくる」


「分かりました」


 ゴードンは去り際にアンジェラを忌々しげに睨み付け、ダリウスに促されそのまま屋敷から出て行った。


「ルーク!血が…っ」


「…大丈夫です。少し切れただけです」


「わたくしを庇ったせいで…ごめんなさい、ルーク」


 アンジェラがルークの傷口をハンカチでそっと押さえる。ルークとアンジェラの指先が一瞬触れ合い、ルークは傷口を押さえたまま、ハンカチを受け取った。


「…ラーナーさんも。間に入っていただいてありがとうございました」


「いえ…。止めるのが遅くなってしまい申し訳ないです」


「――先程、聴取にいらっしゃったとおっしゃいましたね。応接間にどうぞ」


 応接間に向かうアンジェラの後ろに続いたギルバート。アンジェラの華奢な背中は、先程まで乱暴な目に遭っていたとは思えないほど毅然としていた。


「先程のベイリアル卿の態度…一体何があったのですか?」


 ソファーに腰を下ろしてすぐそう尋ねたギルバートの問いに、アンジェラは答えに困ったように逡巡した様子を見せる。


「…わたくしにもよく分かっていないのですが…、伯父様は今回の件を、わたくしと伯父様がご存知の誰かが仕組んだと考えていらっしゃるようで。その『誰か』を探しにこちらへいらしたようでした」


「ベイリアル卿がご存知の誰か?」


「はい。お名前はおっしゃりませんでしたが、たしかに『アイツ』、と特定の方を指していらっしゃる口調でした」


「………」


 やはりベイリアル卿は何かを隠している。それが一体何なのかと思考を巡らせようとしたギルバートは、そのときになって初めてアンジェラの手が小さく震えていることに気が付いた。


「っ、申し訳ありません!先に貴女の安否を確認すべきだったのに…!」


 伯父に怒鳴られ、挙句の果てにはそのステッキで殴られそうになった彼女の身を一番に案じるべきだったのに。そのときの恐怖を思いやって、慰めるべきだったのに。


 凄惨な事件に気を取られて配慮ができなかった自分を心の中で叱咤しながら、ギルバートはソファーから立ち上がりアンジェラへと歩み寄った。


「怖い思いをされただろうに…すみません」


「……いえ、わたくしなら大丈夫ですから。それよりもお立ち上がりください。お召し物が汚れてしまいます」


 膝を着いてアンジェラの様子を窺うギルバートに、アンジェラは微笑んでみせる。それでもやはりその手は震えていて、その姿は賢明に恐怖心を隠そうとしているようにしか見えず。ギルバートは心から彼女に同情した。


「……大変失礼ですが、お手に触れても?」


「…え?ええ、どうぞ」


 行儀よく組まれたアンジェラの両手を、ギルバートは自分の両手で優しく覆う。


「――今回の件は、ベイリアル家当主一家を狙ったものだと考えています。それでも、ベイリアルさんが狙われないという保証があるわけではありません。これ以上被害者を出さないのはもちろん、一日でも早く事件を解決します。この事件に関して、貴女が理不尽な目に遭わないようにもします」


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