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美しき令嬢の復讐劇  作者: 秋乃 よなが


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第五話 The Hair(2)


***


「―――、」


 翌朝。目の前の光景にダリウスは完全に言葉を失うしかなかった。


 つい先日、この屋敷の庭の一角でシートに覆われた遺体を見た。そして今日もまた。ダリウスは同じ場所で、またもや無惨に殺された遺体を目の前にしていた。


 ――モニカ・ベイリアル。今度は取られなかったその瞳の色と、頭部に一部だけ残された髪色、そして身に着けていた服や装飾品から、この遺体が彼女のものであると断定した。


「………」


 ダリウスと一緒に遺体の検分に来たギルバートもまた顔を真っ青にし、言葉を失っていた。それでも捜査のためと、二人は一言も話さず遺体を調べる。そうして現ベイリアル家当主の待つ応接間に向かうと、ゴードンが二人以上に青い顔をしながらも毅然と座っていた。


「……ベイリアル卿、お悔やみを申し上げます…」


「……座りたまえ」


 ダリウスとギルバートの弔意には答えず、ゴードンは二人を座らせる。そしてすぐにモニカが殺された状況を聞いた。


「四肢が脱臼し、伸びていました。いわゆる八つ裂きの刑という拷問方法が使われたのではないかと推測します。また頭部は熱傷が酷く、これが直接の死因ではないかと現時点では考えています…」


「………」


 ダリウスの話を聞いてゴードンがついた溜息は、どんな言葉よりも彼の心中を表しているかのようだった。驚き、悲しみ、怒り、憎しみ、そんな想いがこもった重い溜息だった。


「……これはもう、間違いなく我が家を狙っているのであろうな」


「はい、そのように思います。ベイリアル家ではなく、ベイリアル当主家を狙っているのかと」


「このような惨たらしい殺され方をされるなど……どれだけこの家への憎しみが深いのか…」


「……ベイリアル卿。もう一度お伺いします。本当に犯人に心当たりはありませんか?」


 ダリウスの問いに、ゴードンは言葉を返さない。


「次は卿かご夫人が狙われるのは明白。卿が何か隠されていては、我々も後手に回らざるを得ません」


「…ふん。のうのうと二人目が殺された貴様らの無能さを私のせいにするか」


「いいえ、そのつもりはありません。ただ、相手が化け物である以上、我々もできる限りのことはせねばならないと思った次第です」


「――化け物、だと?」


 ダリウスが口にした『化け物』とは、どういう意味なのか?彼はその言葉を肯定するように真っ直ぐにゴードンを見据え、ゆっくりと頷いてみせた。


「先程八つ裂きの刑という拷問の話をしましたが、あれには相応の力が必要で、昔は動物や道具を使って行われたという記録があります…。しかし今回の場合は違います。人間の力では行えないはずの術を、人間の力で行ったという証拠がありました」


「どういう意味だね?」


「遺体の左手足に、人間の手形が痕になって残っていました。つまりこれは、犯人が自力で八つ裂きの刑を実行したと見て取れます。……人間の身体はそれほど柔ではありません。どんな力自慢でも人間の身体を引き裂くことなどできないはずなのに、犯人はそれをやってみせた。――これが化け物と言わずに何というでしょうか?」


「―――、」


 ダリウスの話を聞いたゴードンの顔は真っ白になり、もはや生気を失っていた。


「……ベイリアル卿。貴方、何かご存知ですね…?」


「――知らん!」


 明らかに動揺が見られるゴードンをダリウスの視線が鋭く貫く。急に忙しなく膝を揺らし始めたかと思えばゴードンは立ち上がり、何も言わずに応接間を出て行ってしまった。


「――ちくしょう!」


 ドン!!!


 ギルバートと二人きりになった応接間で、ダリウスは怒りに身を任せてテーブルをその拳で叩き付ける。


「相手が化け物だってのに!次の犠牲者が出るのは明白だってのに!あいつは一体何を隠してるんだ!!」


 残虐極まりない二度目の犯行を許してしまった。その事実を前に、ダリウスもまた焦っていたのだ。


「ハント警部…」


「…ちっ。もう一度、もう一つのベイリアル家に行くぞ」


「…はい」


 使用人に見送られて、現ベイリアル当主の屋敷を後にしたダリウスとギルバート。そのとき、ふとヘンリエッタの姿を見なかったことを思い出したギルバートは、使用人に彼女の様子を尋ねた。


 どうやら彼女はモニカの死を知り、気を失ってしまったらしい。立て続けに子を亡くしたのだから仕方がないと、ギルバートはヘンリエッタに同情した。


 そして馬車に乗ってもう一つのベイリアル家を訪れた二人。屋敷の前には、ベイリアル家当主の家紋が入った馬車が停まっていた。


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