元カレの結婚式に呼ばれました「は?」
「舐めやがってクソ!クソっ!」
こんにちは、元アイドル現公僕の平塚です。
上司の無茶振りからアイドルグループに潜入することになりました、25歳独身です。
最近元カレが結婚したそうです。
てめえが振った元カノに結婚式の招待状なんかおくってくんじゃねええええええええ
ガチャ
「平塚カバーできたぞ」
怒りをパワーに変えて体型改善のトレーニングを積んでいると同僚の宇佐美くんがトレーニングルームに入ってきた。
「お疲れ様です宇佐美さん」
怒りが収まらず般若の形相で振り返ってしまった。
「なにお前、恐いんだけど」
「きいてくださいよ!」
(うわめんどくさ)
って顔してんな、知らねえ!身内の愚痴聞いてやったんだからお前も聞いてけ。怨嗟の等価交換だ。
「元カレが結婚式の招待状送ってきたんですよ!一方的に振った相手に普通送りますか!?しかも半年もたってないのに!」
「ドンマイ」
「所詮私はキープですよおおおお!クソがー!絶対イイ男捕まえてやる!!!」
「どうでもいいけど、オーディション明日って言ってたけど間に合いそうか?」
「アイドルオタクの宇佐美さんからみてどう見えますか……」
宇佐美さんはドルオタと呼ばれる生物で、休みの度に何かしらのコンサートや劇場に行っている。
チケットが余ったと時々連れて行ってもらうけど、毎回アイドルが違った気がするので多分アイドル全体が好きなんだろう。
だからこそ率直な意見を聞きたい!私アイドルに見えます?
「顔はJCにみえるけど腹筋割れてるアイドルとか無理。若くて柔らかい子がいい」
ロリコン野郎に聞いたのが馬鹿だった。クソ参考にならねえ。これでも筋肉落とした方なんだよ。
「自分の式神でも触ってろ」
「お前が聞いたんだろ」
ちなみに宇佐美さんの式神はうさぎだ。宇佐美さんは代々術氏の家系だが、家督争いが嫌になって公僕になった珍しいタイプの人だ。式神は、夏毛の茶色の毛玉を実体化させワイシャツの胸ポケットから顔を出している。かわいくて落ち着いてきた。
「ワンピースにカーディガン羽織れば腕は隠せるけどなぁ脚が……」
「それならボーイッシュ系で売り込めば?筋肉ついててもキャラ付けになるし長ズボン履いて隠せる」
「ほう」
「俺の好みじゃないけど一枠くらいイロモノあっても紛れられる。それにどうせこっちで圧力かけるんだしほどほどでいいだろ」
宇佐美さん一言余計って言われません?
「いや対象にバレて逃げられたら不味いので」
「お前割とクソ真面目なところあるよな」
「曲がりなりにもプライドありますし……」
「……あの頃はよかったのになぁ、なんで九十九課なんかに来ちまったんだよ」
えっ宇佐美さんアイドル時代の私のこと知ってたんだ。根っからのドルオタじゃん。草
「いやほんとなんででしょうね。所長に誑かされたからですかね」
「……そういうことにしといてやるよ」
「宇佐美さんって意外と優しいですよね」
「意外は余計だ」
宇佐美さんはカバーストーリーの資料を私の顔に叩きつける。目を通すと、ボーイッシュなキャラクターを強調するような人生ストーリーが私の今の見てくれと矛盾しないように構築されている。
宇佐美さんは私の仕事に対する姿勢を信用してくれているのがわかって身が引き締まる思いだ。口は悪いけど
「宇佐美さん有能って言われません?」
「あ?普通だよ」
資料に目を通していると、暇そうな宇佐美さんは兎の式神の下から横顔で長い煙草を吸うロゴの青い箱を探りだす。実体化した兎に踏まれへちゃげた箱から煙草を取り出し火をつける。
「禁煙中なんですけど。JCアイドルの前で吸うんすか」
「禁煙中のやつの前で吸うタバコはうめえなぁ」
ニヤニヤ吸うなヤニカス。キレそう。
ちなみに九十九課の喫煙率は200パーセント。全員が人の2倍吸うから
九十九課を歩けばヤニカスに当たるという格言はあまりにも有名。知らんけど
「クソがよー!」
「任務終わったら奢ってやるよ」
「……ショッピがいいです」
「アメスピカートンでやるよ」
「アメスピ信者が」
「吸いが長えから休めんだよ。お前らせこせこ吸いやがってもっと長く味わえ」
「アメスピは吸った気になれないから無理です無理。軽すぎて物足りない」
「禁煙後のアメスピはうめぇんだぞ」
それ禁煙失敗してんだよなぁ
「あーもう!吸いたくなるし臭い付くので出てってください!」
「はいはい、あとはお前で調整してくれや」
宇佐美さんはとてもいいやつです。性格が。
復讐してやる(血涙