139.1 とある従魔から見たポンコツな主の諸々
書籍5巻メロンブックス購入特典SS
フェンリル・ノルンの娘、ベルの朝は早い。
朝日が昇る前には起き、食事となる獲物を捕りに行く。
これは以前であれば母と共に行っていたが、半年ほど前からは自身のみで行うようになっていた。最初のうちは全く取れず、昼に母と共に狩りに行くまでは空腹を我慢したりしていた事もある。
朝の食事が終わった後、しばらくすると主が起きてくる。自分達への食事を用意する為だ。
小さかった頃は口にしていたが、今となっては獲物の有無に関わらず口にしないようにしている。これは母の教育方針によるものだが、必要な事であると納得している。獲物を狩れない自分の未熟が悪いのだ。
その後は主と軽く運動をする。
「ベル、いきますよー」
「わふっ」
ぐるぐると周りを駆けて主に向かって飛び掛かる。主はそれを必死で避け、反撃しようとしているがまったく形になっていない。ついでに言うと主は奮闘しているつもりのようだが、今まで一度も負けた事がない。正直言って自分の主は弱い。というかぶっちゃけポンコツだった。
自分の……自分達母娘を獣魔として従える主。名前をレンというのだが、最初の出会いは瀕死の母を救ってもらった時の事だった。
あの時の事を思い出すと今でも肝が冷える。もしもあのまま傷を治して貰えなかったら恐らく母は死んでいただろうし、未熟なままたった一匹残される自分もそう遠くないうちに死んでいただろう。とても感謝していた。
そして彼女に感謝していたのは母も同じで、森の奥深くで1人暮す彼女を守る為、恩返しがてらにしばらく見守る事にした。だがここで大分誤算だったのは、恩人である彼女が思ったよりもポンコツであった事だった。
そう、ポンコツだったのだ。それも想像以上に。
母を救ってもらい、共に暮らすようになると、体を動かす事は苦手なようだが色々な事が出来る恩人の事を尊敬するようになった。そんな色々な事が出来る恩人の事を母も一目置いていたようだった。そういった事が重なり、恩人の事を姉のように思うようになっていったし、母も同じように娘のように扱うようになった。だから森を出る時も付いて行く事にしたのだ。
だが、森を出てからは色々と粗忽な面が判明した。
……薄々そんな気はしていたが、予想以上にポンコツだった。
やる事為す事裏目に出るというか、きちんと先を考えているようで実際は後先考えてないような行動も多かった。
後になって思えば、出会いの縁の巡りが悪いというか、運が悪いというか……母が言うにはそういう星の元に生まれたのだろう、との事だ。お陰で未だに一緒に居る。
母としては本当はここまで長く一緒に居るつもりはなかったらしいが、危なっかしすぎて目が離せないと言っていた。自分としても激しく同意見だ。
なぜなら姉だと思っていた人物は姉ではなく、手間のかかる妹だったのだ。いや、姉でもいいのだが、その場合はポンコツな姉だ。異論は認めない。
そんな事を考えているうちに姉との訓練が終わる。いや、『姉との』ではなく『姉への』という方が正しいだろう。
その後は姉の仲間達と一緒に狩りに出かける。そしてその最中に姉はまた色々とやらかす。
「レンさん!? 何してるんですか!?」
「何って……こうした方が楽じゃないですか?」
「いやいやいやいや、楽とかそういう問題じゃなくてですね!?」
……そう、色々やらかす。
とは言え狩りという面で考えると悪い事は殆どと言っていいほど無く、とても有用な事ばかりだ。姉はポンコツで弱いが、凄いのだ。
ついでに、姉と一緒にいると様々な能力の伸びが良くなるようだと母は言っていた。自分の急な成長もそれによるものらしい。急な成長をしていると言われても自分では実感が湧かない。
また姉の軽率な行動は人間の社会においては問題になる事も多いようだ。母が言うには大きな街に滞在していた時は実際に色々と問題になりかけていたらしい、自分にはよくわからなかったが。
しかし姉に仲間が増えた事で人の街に居る時の警戒の度合いが下がったのはとてもありがたかった。こんなポンコツな姉と一緒に居てくれるような人が2人もいるとは、世の中には奇特な人間もいるのだな、と感慨深く思ったものである。
……人間の仲間が増えた事でこれからは姉の面倒を見る手間が減るのかと、少し寂しく思ったのもここだけの話だ。
まあ仲間が増えても姉の行動はあまり変化しなかったので、やはりまだまだ手間がかかるのは変わらなかった。
「ちょ、レンさん! 今度は何するつもりですか!?」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないですよー!」
「リリー、もう諦めなよー」
……まあ何にせよ、このポンコツで残念極まる姉はまだまだ目を離してはいけないという事なのだろう。











