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見つけたぞ

「レンちゃーん」


 イリヤさんが手を振りながら近づいてくる――。

 僕の前で立ち止まると、「少しやり過ぎちゃったかな? テヘッ!」

 と、舌を出した。


「あ、そうだ! レンちゃん、怪我してない? 大丈夫?」

「ゴーレムの石が飛んできて、少し痛かったかな」

「だよね、だよね。いま治してあげるね ――ヒール!」


 イリヤさんが回復魔法を掛けてくれる。

 よくイリヤさんの手を見ると、内出血している所があった。

 自分だって痛かっただろうに、僕を優先してくれたんだね。


「どう、治った?」

「うん、治りました」

「良かった~。あ、ついでに――私を好きになれ~」

 と、イリヤさんはいつものように魅了の魔法を掛けてくる。


 だけど少しすると、表情を曇らせ、止めてしまった。


「って、効くわけ無いよね」


 僕は今まで何を見ていたのだろうか?

 僕のために守ってくれたり、怒ってくれたり、信じてくれたり……こんなにも想ってくれる素敵な女性は、現実世界にも居なかった。


 僕はシュン……っと悲しそうにしているイリヤさんの両手を優しく握り、引き寄せる。


「そんな事ないですよ。今回はちょっと効きました」


 恥ずかしくて“ちょっと”と言ってしまったけど、本当は十分に効いている。


「え?」


 イリヤさんはキョトンとした表情で、上目遣いで僕を見つめてきた。

 キュンっと胸が高鳴る。これは反則だろ。

 イリヤさんは僕の視線に気付いたのか、直ぐに視線を逸らす。


「ねぇ、レンちゃん」

「何ですか?」

「私の手を握っているけど、まさか意味を分かってやってないよね?」

 と、言ったイリヤさんの頬が赤くなっていく。


「意味? どういう事ですか?」

「やっぱり異世界から来たから知らないよね。この世界で魔女の手、特に紋章がある左手を握るって事は結婚してくださいと言っているようなものなのよ」

「え!?」


 僕は慌てて、手を離す。

 そうか、そういう事か。助けて貰った時に両手を包んで「ありがとう」

 と、言ったから、こんな調子なのか。


「ちょっと、そんな直ぐに手を離さないでくれます? 傷つく」

「あ、ごめんなさい」


 イリヤさんは口元に指を当て「クスッ」

 と、笑う。


「冗談よ」


 そう言って、僕に背中を向けると、後ろで手を組みながら、ゆっくり歩き出す――。

 急にピタッと足を止めると「ちゃんと教えたからね」

 と、言ってこちらを振り向くと、体を傾けながら「今度、握る時はちゃんと意味を込めてくださいね」


 あぁ……尊い……。

 意識をしてしまったからか、イリヤさんの仕草がますます可愛らしく見えてくる。


「はい!」

「元気な返事でよろしい! さて、魔力の結晶を回収して、サッサと帰りましょ」

「そうですね」


 僕達は手ごろな魔力の結晶だけを持ち帰り、その場を立ち去った。


 ※※※


 それから数カ月が経ち、僕達は無事、異世界転移に必要な材料を揃えた。

 いまはイリヤさんが紹介してくれた鍛冶屋で、異世界転移のネックレスを作って貰っていた。


 これが完成すれば後は帰るだけだ。

 でも帰った所で、いつもの退屈な日常に戻るだけ……それで良いのだろうか?

 それにイリヤさんとも離れ離れになってしまう。

 せっかく恋人同士の様な楽しい毎日を過ごしているのに、そんなの嫌だ。


「ほら、出来たぞ」

 と、ドワーフのオジサンが、金色の鎖に魔力の結晶が付いたネックレスを渡してくれる。

 僕は受け取り「ありがとうございます」


「レンちゃん」

「なに?」


 イリヤさんの方に視線を向けると、イリヤさんは何だか浮かない表情を浮かべていた。


「そのネックレス、直ぐに使うの?」

「いや、まだ迷ってる」


 僕はそう返事をして、ポケットにネックレスを入れた。

 腰に下げた布の袋から硬貨を取り出すと、テーブルに置く。


「お金、ここに置いておきますね」

「はいよ。毎度あり」

「イリヤさん、行こう」

「うん」


 僕達は鍛冶屋を後にして、拠点にしている町へと向かう。

 その町は大きい事もあり、多種多様な人々が訪れるので気にする事なく過ごすことが出来ていた。


 僕達が草原を歩いていると、正面から鎧に身を包んだ20人ぐらいの兵士が歩いてくる。

 何かあったのだろうか?

 そのまま歩き続けていくと、兵士達はなぜか僕達の数メートル手前で足を止めた。


「見つけたぞ」

 と、先頭を歩いていた隊長らしき男が言った。

 僕は足を止め「イリヤさん、知り合い?」


「――いえ、全く」

「魔女イリヤ、お前を我が国の兵士を殺した罪で、連行する」

「なんだって!?」


 イリヤさんが無表情で俺の横を通り過ぎ前に出る。


「あぁ……あの時の……それはあなた達が、私を襲ってきたから悪いんじゃない?」

「いや、お前が反抗したからだ」

「ふー……話しても無駄のようね」


 イリヤさんが呪文を唱え始めると、兵士達はロングソードを抜き始める。

 え、え、ここで戦うつもり?


「フレイム!」


 イリヤさんの右手から火炎放射器のように炎が放たれる。

 ドラゴンのブレスのような広範囲の炎が、あっという間に草原を焼いていった。


「くそっ! これじゃ進めない!」

「レンちゃん、今のうちに逃げるわよ」

「うん!」


 僕達は全力で草原を駆け、その場を逃げ切った。


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