置き去り
僕達は更に奥へと進む。
すると、天井に切れ目があるのか日が差し込む明るくて開けた場所へと出た。
地面には光輝く青い鉱石が点々と転がっていて、幻想的な風景を醸し出している。
もしかして、あれが魔力の結晶か?
「どうやらここが、最深部みたいね」
「ねぇ、イリヤさん。あれが魔力の結晶ですか?」
「そうよ」
「へぇ……だとすると、何でまだ火が点いたランタンが、いくつも地面に転がっているんだろ?」
「それは多分――」
「おい、邪魔だ。退け!」
と、僕達の会話を遮るように、イリヤさんの後ろから聞き覚えのある男の声がする。
――現れたのは、僕をパーティから追放した3人組の冒険者達だった。
「あら、レンじゃない。こんな所で何をしているの?」
と、僕が知っている魔女の一人、スカーレットさんが見下したような目で、そう言った。
「えっと……魔力の結晶を取りに」
「ハッハッハッ。そいつは笑える」
さっき退けと命令してきた男、クリジットさんは僕の話を聞いて豪快に笑いだす。
「荷物持ちさえ、まともに出来なかったお前ごときが、よく奥まで来れたな」
ムッとした瞬間、二人の間に立っていたこのパーティのリーダー、カイルさんがニヤけた顔でクリジットさんの肩にソッと手を置く。
「その辺にしといてやれ」
「分かったよ」
「それより、レン。魔力の結晶は俺達の獲物だ。渡してもらおう」
「え、それは良いですけど全部ですか?」
「ハッハッハッ」
またクリジットさんが笑いだす。
「全部に決まっているだろ?」
「そうよ、そうよ」
と、スカーレットさんも相槌を打つ。
意地汚い奴ら目……。
「何だよ、その目つきは? 俺達とやろうって言うのか?」
痺れを切らしたのか、壁に寄り掛かって、話を黙って聞いてくれていたイリヤさんが、動きだす。
僕は慌てて首を横に振った。
こんな奴らのために、手を汚して欲しくはない。
「そうだろ、そうだろ」
と、クリジットさんは勘違いをして、頷く。
「ねぇ、カイル。さっさと回収しましょうよ」
甘えたような声でスカーレットさんがそう言うと、カイルさんは頷き歩き出す。
「そうだな」
二人はカイルさんの後に続き、歩き出した。
僕はイリヤさんの所へ向う。
「イリヤさん、帰ろう」
「もう少し待っていた方が良いわよ」
「え、何で?」
「きっと面白いものが見られるから」
と、イリヤさんは言って、ニコッと笑った。
なんだか良く分からないけど、様子を見ることにする。
「ウヒョー、こいつはスゲェー……」
クリジットさんが何やら騒いでいる。
視線を向けるとクリジットさんの目の前に、両手で抱えて持つぐらいの大きな鉱石があった。
え、え、あれも魔力の結晶なのか?
クリジットさんが魔力の結晶を持とうと屈んだ瞬間、ゴゴゴゴゴ……と突然、地響きが鳴り、地面が揺れ始める。
「な、なんだ!? 何が起きてやがる!?」
大きな魔力の結晶が眩いばかりの光を放つと、大きな岩が宙を浮く。
それに合わせ周りの岩も次々に宙を浮き始めた。
魔力の結晶が宙に浮くと、それを中心に岩が集まり、足……体……腕……顔を形成していく。
胸の部分に露出していた魔力の結晶が隠れると、家並みに大きなモンスターはゴォーっ! と雄叫びをあげた。
「あ、あれは?」
「ゴーレムよ」
と、冷静にイリヤさんが教えてくれた。
「あれがゴーレム……あんなの倒せるの?」
「さぁ? 私ならどうにかなるかもだけど、あいつ等はどうやって倒すのかしらね? クスッ」
イリヤさんは助けに入る素振りは見せず、また壁に背中を付けると腕を組んだ。
僕はどうしよう……。
そう思いながら、視線をカイルさん達の方へと向ける。
ゴーレムは足元で腰を抜かしているクリジットさんに気付いたのかギロッと、視線を向け、足を振り上げ始めた。
クリジットさんは慌てて立ち上がろうとするが、遅かった。
ゴーレムに蹴られて、僕達の方へと吹き飛ばされてしまう。
「ちきしょう! スカーレット、俺がゴーレムは引きつける。その間にクリジットを頼む」
「了解」
カイルさんは鉄の盾を構えながら、ゴーレムの方へと向かっていく。
スカーレットさんは、クリジットさんに向かって駆け寄って行き、クリジットさんは鉄の鎧を装備しているのに、ゴホッと吐血をしていた。
なんて攻撃力なんだ……僕は黙ってその光景を見ている事しか出来なかった。
「クリジット、しっかりして」
クリジットさんのもとに到着したスカーレットさんは直ぐにしゃがむと、回復魔法を唱え始める。
「ヒール!」
――少しして、傷が治ったのかクリジットさんがスクッと立ち上がる。
「――おい、スカーレット。今のうちに逃げるぞ」
「え? でも、カイルは?」
「あいつならきっと、一人でも上手く逃げるだろ」
「でも……」
「自分の命とあいつ、どっちが大事なんだ?」
スカーレットさんは黙って考え込む――。
スクッと立ち上がると「分かった。逃げましょ」
まじかよ……。耳を疑う会話が飛び交い、戸惑ってしまう。
――クリジットさん達は後ろめたさがあるのか、僕と視線を合わす事なく、横を通り過ぎ、逃げてしまった。
カイルさんは裏切られた事を知らずに、まだ一人で必死に戦っている。
「レンちゃん。あいつ等のパーティから抜けて、良かったわね」
「う、うん」
「さて、どうする? 私はレンちゃんの指示に従うけど?」
内心、あいつ等が逃げていって、ざまぁっと思ったのは事実。
でもあの人達と付き合っていく中で、あの人達も誰かに裏切られて生きてきた事は知っている。
カイルさんだってその一人。
それに短い間だったけど、優しくして貰った事もあった。
僕は――。