まるで思春期の女の子のようだ
家がポツン、ポツンと建っている小さな村に到着する。
農業が盛んなようで、畑がよく目に入った。
「ねぇ、イリヤさん。何か買いたい物あります?」
僕は村の真ん中で足を止めると、後ろを歩いているイリヤさんに話しかけた。
イリヤさんはうつむきながら「別に無いわよ」
と、呟くように答えた。
具合でも悪いのだろうか?
「そう。声、小さいけど具合でも悪いんですか?」
「そんなんじゃないわよ、話しかけないでくれる?」
機嫌が悪いのか、イリヤさんは素っ気なくそう言った。
「分かりました」
よく周りを見ると村人がジロジロとこちらを見ている。
「ねぇ、あの女性の左手……」
「うん、きっとそうよね」
村人のヒソヒソ話が微かに聞こえてくる。
そう言う事か……。
この世界では魔女は珍しい存在で、左手の甲に魔女の証である紋章のようなアザがある。
魔女は魔女だと気付かれたく無くて、イリヤさんのように包帯などで隠しているのだが、直ぐに勘付かれてしまっていた。
僕は黙って村人を睨みつける。
「あの男の人。女性に話しかけていたよね?」
「うん。じゃあ……」
村人のヒソヒソ話は止まらない。
胸糞悪い……イリヤさんの為にも、サッサッと用事を済ませて村から出よう。
「ちょっと、あなた達」
と、突然、イリヤさんのトーンの低い声が聞こえる。
イリヤさんに視線を向けると、とても冷たい視線で村人を見つめていた。
「私は何と言われようと構わない……だけど、レンちゃんを馬鹿にしたら、あなた達もろとも、この村を焼き払ってやるから、覚悟しなさい」
イリヤさんはそう言って、掌から炎を出す。
村人達は血の気が引いた表情を浮かべ、アッと言う間に去っていった。
僕は勘違いをしていた。
イリヤさんが離れて歩く理由って、僕を守るためだったんだね。
僕はイリヤさんに近づき、左手を握ると「行きましょ」
「きゃ!」
イリヤさんは突然、可愛らしい悲鳴をあげ、僕の手を振り払う。
見る見るうちに顔が赤くなっていくのが分かる。
「突然、なにするのよ!」
と、言って、顔を手で覆いながら、走り去ってしまった。
それはまるで思春期の女の子のようだった。
そんな可愛らしい後ろ姿をずっと見ていたかったけど、ドンドン離れていってしまうので慌てて僕は後を追いかけた。
「ちょっと、待ってくださいよー」
※※※
村で魔力を回復するマジックポーションを調達すると、イリヤさんに渡す。
「ありがとう」
「いつもお世話になっているお礼です。さて、次に行きましょう」
「うん」
僕達は村を後にして、次の目的地の洞窟に向かう。
その洞窟にはどうやら、マジックポーションの原料となる魔力の結晶が眠っているらしい。
魔力の結晶は非常に貴重な鉱石で、高く取り引きされている事もあり、冒険者が各地で探し求めている。
僕が現実世界に戻るために必要な材料だとも聞いているので、なんとしてもここで手に入れたい。
――数時間が経ち、噂の洞窟に到着する。
岩石の壁に人がすんなり入るぐらいの入口がある。
ひび割れたような入口で、自然に出来た感じだ。
入口の周りには、苔や蔓草が生えている。
外から見た感じ、中は真っ暗だ。
「ランタンを持ってくれば良かった」
「あら、それなら大丈夫よ。私の炎があるじゃない」
「でもそれだと、イリヤさんが大変なんじゃ……」
「大丈夫、大丈夫。マジックウォーターがあるし、私の魔力はそんな簡単に枯渇する程、やわじゃないよ」
確かにイリヤさんが魔力を切らしている所を見たところがない。
「それじゃ……頼める?」
「もちろん!」
「じゃあ、お願いします」
僕はそうお願いすると、洞窟の中へと進む。
――中はとても広く、ジメジメとしていた。
予想した通り、天井や壁に裂けている所は無いので、イリヤさんの炎が無ければ進めないぐらいに暗かっただろう。
僕達は順調に奥へと進んでいく。
奥に進めば進むほど、敵は強く多くなっていったが、イリヤさんが炎を維持しながら戦ってくれたおかげで、苦労することは無かった。
「イリヤさん、大丈夫ですか?」
「平気よ! レンちゃんは? 痛いところ無い? ヒールを掛けてあげようか? それとも魅了魔法の方が良い?」
「いや、大丈夫です」
「え~……何かあったら遠慮なく言いなさいね」
「ありがとうございます」