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好きになれ~

 普通に高校生活を送っていたのに、ひょんな事から異世界に来てしまった僕……。


 持ち合わせていたものを全て売り、金を払って名のある冒険者のパーティに入れてもらったけど、お前は弱いからいらないと追い出されて一ヶ月ぐらい経っただろうか? 


 早いものだ。

 僕は木漏れ日で明るい森を歩きながら、青空を見上げる。

 ――皆、僕の事を心配しているだろうか?


 ガサッ!


 突然、横の茂みから物音がして、慌てて歩みを止め、視線をそちらに向ける。

 急いで鞘からロングソードを抜くと、構える。


 ――すると目の前に豚の顔に腹の出た人の体をしたオークが現れた。

 この世界では割と強い方の魔物だ。でも大丈夫。


「レンちゃん! しゃがんで!」

 と、背後から可愛らしい声がして、僕はすかさずしゃがみ込む。


「ファイヤーボール!」


 僕の頭上をサッカーボールぐらいの大きな火球が通り過ぎていく。

 その火球は目の前に居たオークへと命中し、オークはアッと言う間に炎に包まれ、活躍の場もなく、焼き豚となった。


 相変わらず恐ろしい程の威力だ……ファイヤーボールは最下級魔法で、僕の知っている魔女だと野球のボール程度の大きさしかなく、オークに3発ぐらいは当てないと倒れなかった。


 それをたった一発で仕留めてしまうとは、イリヤさんの魔法は別格だと分かる。


「レンちゃん、大丈夫!?」


 僕が振り向くと、イリヤさんはこちらへ駆け寄って来ていた。


「あぁ、大丈夫ですよ。だってオークは僕に触れること無く、丸焦げじゃないですか」

「でもでも、どこか怪我をしていたら大変だから回復してあげるね!」


 イリヤさんはそう言って呪文を唱え始め「ヒール!」

 と、僕に回復魔法を掛けてくれた。


 イリヤさんは攻撃魔法だけじゃなく回復魔法やサポート魔法まで使いこなせるので、帰る方法を探しながら旅をする僕にとって、本当に大助かりだった。


「どう? 治った?」


 治ったというより、元から怪我はしてないんだけど……まぁ、いいか。


「はい、治りました」

「良かった!」

 と、イリヤさんは切れ長の目を垂らし、ニコッと笑った。


「じゃあ、ついでに」


 イリヤさんは人差し指を立て、僕の顔の目の前でトンボの目を回すようにグルグルと回して「私を好きになれ~」

 と、恒例の魅了魔法を掛けてくる――。


 指を止め、腕を下して後ろで手を組むと、体を傾げて「どう? 効いた?」


「――ごめんなさい。効いてないみたいです」


 イリヤさんは黒いローブに三角帽子と地味な恰好はしているけど、艶のある黒いロングヘアに、整った顔をしていて大人の雰囲気漂う美女といった感じだ。

 それに反して仕草や声は可愛いから、ギャップでドキッとはしてしまう。

 でもそれは恋愛感情とはちょっと違う。


「そう……残念ね」


 イリヤさんは本当に残念そうに眉を顰めると、フイッと僕に背中を向けた。


「じゃあ、先に行こうか?」

「うん」


 イリヤさんは僕の返事を聞くと、僕と反対に歩き出し距離を取る。

 並んで歩くのが恥ずかしいのか、いつもイリヤさんはこんな感じで距離を取っていた。

 僕的には好きになれ~の方が恥ずかしいと思うのだけど。


 それはさておき、村に向かうか。

 僕はイリヤさんに背中を預け、歩き出す――。

 それにしてもなぜイリヤさんは、僕なんかに好意を寄せているのだろうか?

 僕は歩みを止め、後ろを振り向く。


「ねぇ、イリヤさん」

「なに?」

 と、イリヤさんは返事をして足を止めた。


「イリヤさんはその……何で僕に好意を寄せてくれているんですか?」


 イリヤさんはニコッと微笑むと「ふふ。内緒!」

 と、最後にハートが付きそうな言い方で答えた。

 ダイレクトに聞いても駄目だったか。


「そうですか……」


 僕はまた村に向かって歩き出す――。

 僕とイリヤさんが出会ったのは、パーティ―を追放されて直ぐのこと、森でモンスターに襲われてイリヤさんが助けてくれた。

 それだけで、何か特別な事があった訳ではない。

 それなのにずっと、あんな感じだ。

 ――まぁいま答えを知らなくても、そのうち分かるか。


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