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「とりあえずこれは置いとくわね」
ガーデンハウスの机への上に、クーリアから預かった魔導銃を置く。
ここに人がくることなどほぼないので、そんな見えるところに置いていても問題は無いのだ。
「さて。……じゃあ、ちょっとこっちにきてくれる?」
「は、はい」
クーリアが女性へと近付く。すると女性はクーリアの頬に手を当て、初めて会った時と同じようにお互いの額をコツンと合わせた。
(あったかい……でも、なんでこんなことするんだろう?)
疑問に思いつつも、クーリアはその温かさに身を委ねた。
「……不味いかしら」
額から離れ、女性がそんなことを呟く。
「何がです…?」
「あ、いえ。こちらの話よ」
そう言って、またしても以前と同じようにブツブツと考え事を始めてしまった。
クーリアは何となく邪魔をしてはいけない気がしたので、リーヴォ達の方へ遊びに行った。
「…分離が難しくなってる。あの時のせいか…。あの子にとっては命そのもの。だから慎重にやらないといけないし……結局振り出しじゃない!あぁもう!」
声を荒らげ、女性が美しい髪を掻きむしる。相当イライラしているようだ。
とここでクーリアが居なくなっていたことに気付いたようで、女性がクーリアをキョロキョロと探しだす。
「……寝ちゃった?」
「ガウ」
クーリアは銀狼の体に寄りかかり、その瞳を閉じて規則的な寝息を立てていた。
クーリアにとって、もういつもの寝る時間を過ぎていたのだ。
「…起こすのは悪いわね。送りましょうか」
「ガウ」
「え、あなたが送るの?」
「ガウ」
その通りと言わんばかりに頭を縦に振る銀狼。
「…家に入れないのに?」
「………ガウゥ」
その事に気付かなかったようで、銀狼の耳がペタンとしおれる。
「…そんなに気に入った?」
「ガウ!」
「あぁ起きちゃう」
「ガ、ガウ…」
「ふふっ。そうねぇ。ここまであなたに恐怖を感じない子も珍しいものね」
「ガウガウ」
「はいはい。わたしが送るわ」
その瞬間、クーリアの下に白金色の魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣が輝くと、クーリアの姿が掻き消えた。
「……よし。ちゃんとベットの上ね」
まるでここから見えているかのように女性が呟く。
「アウ!」
「あ、ごめんなさい。あなたも送るわね」
うっかり忘れられていたリーヴォも、クーリアと同じようにして家へと送られた。
「…あの子に託して正解だったわ。もし託してなかったら今頃……。今後そうならない為にも、ちゃんと直さないとね」
女性が魔導銃を持ち上げる。すると、その魔導銃は虚空へと溶けるようにして消えていった。
「……この魔法今度教えておこうかしら?便利だし」
「ガウゥ?」
「出来るわよあの子なら。なんたって……」
──────わたしの子なんだから。




