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例のごとく終礼に遅れ怒られてしまったクーリアは、ナイジェルに怒られたのはもちろんの事、リーフィアにも怒られることとなった。
しかし、幸いと言っていいのか、周りに人の目があった為に、氷漬けにされることはなかった。
「今度は、ちゃんと遅れないでね?」
有無を言わさぬ笑顔でリーフィアにそう言われてしまっては、クーリアは、頷くことしかできなかった……。
「はぁ…重かった」
ドサッ!と机に荷物を置く。行きはそこまで重くなかったのだが、ドリトールから貰った魔導刻印の本が入っていた為だ。
……それと、魔導銃本体も。
「思わず貰っちゃったけど……ほんとどうしよう?」
こんな物騒な物をクーリアは使う機会などない。まぁ、あるとすれば、銀狼に会うときの護身用だろう。
「……そう言えば、今日は満月か」
クーリアがあの謎の女性の言葉を思い出す。約束通りなら、今日会うことができるはずだ。
「リーヴォ」
「アウっ!」
クーリアが呼ぶと、リーヴォがベットの下から這い出て、椅子に座るクーリアの膝の上へとかけ登った。
「ふふっ。ただいま。寂しかった?」
「アウゥ…」
グリグリと頭をクーリアへと押し当てるリーヴォ。どうやらクーリアの言葉通り、寂しかったらしい。
「ごめんね……ねぇ、リーヴォ?」
「アウ?」
頭を押し当てるのをやめ、リーヴォがクーリアの顔を見る。
「親に会いたい?」
「…アウっ!」
少し躊躇いながらも、会いたいと言うように鳴き声を上げた。
「本当にあなたは賢いねぇ…」
ただの狼にしてはあまりに賢すぎて、クーリアは思わずそんなことを呟いた。
クーリアの言葉を完全に理解しているのはもちろんのこと、先程返事をするのを躊躇ったのは、恐らくクーリアに迷惑ではないかと考えたのだろう。
「アウっ!」
褒められたと思ったのか、リーヴォがフリフリと嬉しそうに尻尾を振る。それを見て、クーリアの顔が破綻した。
「かわいいっ!」
「キャンっ!?」
思わずいきなり強く抱きしめてしまい、リーヴォに逃げられてしまった。
クーリアは悲しそうな顔をしながらも「ごめんね」と謝り、机へと向き直った。
「さてと。日が落ちるまでまだ時間はあるし、ちょっと試してみようかな」
クーリアが机の上に置いておいた荷物から魔導刻印の本を取り出す。そして魔導刻印の中の一つ。雷撃弾の刻印が書かれたページを開いた。
魔導刻印は、専用の道具と魔力。それと、魔導刻印についての正しい知識さえあれば、刻むことができるものだ。なので、無属性しか適性がないクーリアであっても、雷や火といった属性の魔法を刻むことができ、使うことができる。まぁ、使うためには魔導銃が必要にはなるが。
「わたしにとっては便利だけどねぇ…」
そう。クーリアにとって便利という言葉で片付けられるものではあるが、もしこんな物が世の中に簡単に出回ってしまっては、それこそ大変なことになってしまう。
「……保管はサラに頼むか」
魔導刻印について書かれた本はクーリアが持っておくには危険過ぎるので、クーリアはサラに保管を頼むことにした。事実、それが賢明な判断だろう。




