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クーリアにはドリトールが伸ばしてきた手を取り、はね上げ扉から出る。そこは小さな窓があるくらいの質素な部屋だった。
「で、何の用ですか」
まるで不機嫌そうなのを隠す気がない声でクーリアが尋ねる。もともとクーリアが見た紙には『いつもの所に来い』としか書いていなかった。それ故の質問と機嫌であった。
「…それが学園長に対する態度か」
「あなたを学園長と思ったことはありません」
クーリアがニッコリと笑顔を浮かべる。完全なる意趣返しである。
それが分かったのか、ドリトールが苦い顔をする。
「…とにかくこっち来い」
「はいはい」
ドリトールが背を向けて歩き出したので、クーリアもその後ろに続く。
ドリトールは部屋にひとつしかない扉を開け、その先へと足を踏み入れた。
「…また部屋変わりました?」
部屋に入ってそうそう、クーリアがそんなことを口にする。以前にもクーリアはここに来たのだが……そのときとは部屋の構造が変わっていたのだ。
実の所この部屋はドリトールが創り上げた空間であり、彼の好きなように変化させることが可能な為、毎回構造が変わっているのだった。
「とりあえず座れ」
クーリアが言われた通りに椅子へと腰掛ける。するとドリトールはクーリアの目の前の机に、中くらいの大きさの木箱を置いた。
「これは?」
「開けてみぃ」
クーリアがその木箱の蓋を開ける。その中にあったものは……
「……銃ですか?」
中に入っていたのは、銀色の小型の銃だった。
これは魔導銃と呼ばれる代物だ。
かつて大きな戦争があった。そこで多くの魔術師がその命を散らした。だからこそ、力が必要だった。魔法に代わる力が。
その時に開発されたのが、この魔導銃であった。撃つためには微量の魔力がいるものの、平均的な魔力を持っていれば問題なかった。
魔導銃から撃ち出される弾丸には、魔導刻印と呼ばれる手法により、様々な属性の魔法を込めることができた。
そのため戦争において、大きな戦力となった。
魔法が使えない者が、魔法を使えるようになるのだから。
しかしながらその威力の危険性から、大戦後は規制条例がだされ、持つためには国の許可が必要になった。
…そんな物騒な代物が、今クーリアの目の前にある。
「……どうしたんですかこれ」
クーリアが怪訝そうな目でドリトールを見つめる。正当な物でないのなら、最悪投獄されてもおかしくない。
「そんな目で見るな。ちゃんと許可は取っている。ほれ」
クーリアの目の前に1枚の紙をチラつかせる。そこには確かに王国の印と、この魔導銃のものと思しき型式番号が書いてあった。
「本当に許可とってる…」
「寧ろ何故取っていないと思ったのか……」
…それだけクーリアからの信頼がないのだから、仕方ないのであった。




