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クーリアが進み始めた通路は緩い下り坂になっていた。なので今現在クーリアが進んでいる場所は、もう既に地中であった。
「転移ではなく古典的な通路。至る所にある魔道具は魔法による索敵を妨害するためのなんだろうけど……作った動機が不純だわぁ…」
この通路はある人物が一人で作ったものであったのだが、その作った理由というのが……逃げる為であった。
この逃げるためという理由。一見すると避難のために逃げるということかと考えるが…対象はそれではない。……仕事から逃げるためだ。なので通路の存在がバレないように、妨害する魔道具が設置されていたのだった。
「はぁ……いっその事、崩して塞いでやろうか」
クーリアが不穏なことを口にするが……もしそんなことをすれば学園が崩壊しかねない。まるで蜘蛛の巣のように地中にこの通路が張り巡らされているからである。もし崩して塞ごうものなら、通路が連鎖崩壊を起こし学園が崩壊するだろう。
無論クーリアはそれが分かっているため、実行するつもりは毛頭ない。ただ単にそう口にしなければ、気が収まらなかっただけなのだ。
義務から逃げたいが為にこんなものを作ってしまう、理不尽な存在に対して。
そうしてクーリアがブツブツと愚痴のような文句のようなことを呟きながらしばらく進むと、上へと続く螺旋階段へとたどり着いた。
「……これ登るのかぁ」
クーリアが心底うんざりと言った表情を浮かべた。
上を見上げると、かなりの長さがあることが分かる。何度か登ったことはあるのだが、それでも慣れることは出来なかった。
「はぁ……」
ため息をつきながらも、クーリアは階段を登り始めた。
「んんんっ!!」
クーリアは螺旋階段を登り終わったのだが……出口であるはね上げ扉が重く、立ち往生していた。
「はぁはぁ……」
クーリアは自身の非力さを嘆く。しかし、同時に不安を覚えた。
(前は、開けれたのに……)
そう。前は扉を開けることを出来た。しかし、今は出来なくなっていたのだ。
……クーリアは何か思い当たることがあるのか、唇を噛んだ。
(まだ。まだ、わたしは……)
その時、不意にはね上げ扉が開いた。
「……何やっとるんだ、お前は」
それと同時に呆れたような年老いた男性の声が聞こえた。その声を聞いて姿を目に収めると、クーリアがため息をつく。まるでうんざりといった様子で。
「……閉めるぞ」
「どうぞ」
即答する。もとよりクーリアは、呼ばれたからここに来たのだから。
「……はぁ。ほれ、早く上がれ」
「生徒に対する対応ですか、それ」
「お前を生徒と思ったことは無い」
「ひど……」
全くである。まぁ確かに生徒とは呼べないかもしれないが……
「ほれ、時間ないじゃろう?」
「はぁ…分かりましたよ。学園長」
そう。クーリアをここへ呼んだ人物。それは、この学園の学園長……ドリトール・マクスウェルだった。




