62
その日の授業は至っていつも通りであった。
……クーリアが寝ていないことを除けば。何故クーリアがいつものように寝ていないのかというと……
「お姉ちゃん、寝ちゃダメだよ?」
「………」
リーフィアのせいであった。
一応転入生でありまだ慣れていないリーフィアの為に、ナイジェルが席をクーリアの隣にしたのだが、そのせいでクーリアは寝ることが出来なかったのだ。
「……クーリアが起きて授業受けてるところ、俺初めてみたかも」
思わずナイジェルが呟いた。
「……お姉ちゃん、どういうことかな?」
「ひぅ?!あ、いや、その……」
クーリアがまるで猫に睨まれたネズミのように縮こまる。
授業中のことは家族には誰一人として話していないので、リーフィアは今日初めて知ったのだ。だからこそ、尋ねた時の声は……凍えるような声だった。
「はぁ……まぁ分かるんだけど」
「あ、そう?」
「……(だって正直お姉ちゃん学園に通う必要ないでしょ?)」
「まぁね」
だがクーリアは自身の学習状況をリーフィア以外に教えていないので、学園を飛び級で卒業するという手段をとることは出来ないのだ。
「よし。じゃあリーフィア、これを解いてくれ」
「はい。33です」
「正解だ……やっぱり姉妹だな」
「なにがです?」
「いや……普通に解いたが、これまだ習ってないんだぞ?」
「そうなんですか?でも簡単ですし」
「……なんでこの姉妹俺のクラスにいるの?」
全くもって正論である。
「望んだからとしか…」
「わたしはアレのせいだし」
……一教師をアレ呼ばわりである。
「はぁ……まぁ、いいか。とりあえず座学はここまでだ。この後は実習だが……」
「はい。行っていいですか?」
「はぁ……絶対戻ってこいよ!?」
「分かってますよ」
第一としてリーフィアという存在が今回はいるので、クーリアは遅れることはしたくなかった。
………おそらく静かな怒りを貰うことになるからである。
クーリアの兄妹で最も怖いのは、1番下のリーフィアなのだ。
(……凍りたくないんだもん)
……これは比喩ではない。本当に凍らされるのだ。実際クーリアは一度凍らされたことがあるのだが……低体温症で死にかけた。
なので絶対凍りたくないクーリアは、遅れないようにしようと心に誓ったのだった。




